■生活がすさみ、要介護度が上がってしまう高齢者も
さらに前出の櫻庭さんは、「このところの物価高は、事業者だけでなく利用者のサービス離れを加速させている」と危惧する。
「利用者さんのなかには、月5万円以下の年金で生活している人も少なくありません。この物価高で生活が立ちゆかなくなって、生活援助サービスを減らさざるをえない人も。食事を作る、住まいを掃除する、といった生活の基本を整えないと、どんどん要介護度が上がってしまうんです」
訪問介護サービスには、食事や掃除などをサポートする「生活援助」と、排せつや体の清拭など「身体介護」の2種類あるのだが、「コロナ禍以前から、生活援助のサービスが使いにくくなっていることが問題」と訴えるのは、NPO法人「暮らしネット・えん」の代表理事、小島美里さんだ。
「政府は、社会保障費の増大を理由に、この間、なんとか介護保険で提供するサービスを縮小しようとしてきました。そこでやり玉に挙がってきているのが生活援助。『家事なんて主婦の仕事』だと言わんばかりに介護報酬が低いのです。だから大手事業者は、公然と『(報酬が低い)生活援助だけでは請け負いません』と言っています。こうした大手が引き受けたがらない生活援助を担ってきたのが、地域密着の小規模事業者なんです」
こうした小規模事業者がどんどんつぶれていくと、どうなるのか。
「小さい事業者はつぶれて大きいところが吸収したらいいなんて話も聞こえてきますが、大手の場合、利用者が支払う介護費用も高くなります」(小島さん)
支援が受けられなくなった高齢者の末路は悲惨だ。
「たとえば、骨折をした高齢者がなんとか歩くことはできるけど家の片付けはできないといった場合、支援が入らなければ部屋は散らかり放題ですよね。すると、またつまずいてほかの部分を骨折したり、それがきっかけで、どんどん無気力になったりするんです」
そうなると、認知症を発症する可能性も高まってしまうだろう。さらに、前出の櫻庭さんも、「家族も犠牲になる」と指摘する。
「サービスが受けられないことで、介護に疲れて介護殺人が起きたり、子どもや孫が介護に忙殺される“ヤングケアラー”などの問題も増加すると思います。実際に、介護サービスを探しても受けられないから、といって諦めてしまっている高齢者も多いですから」
高齢者や家族が犠牲になる悲惨な未来を防ぐためにも、国や自治体には早急な対応が求められる。