■高齢者や、介護を必要としている人などにはハードルが高い
また、被保険者のライフステージの変化にも、対応していないケースが多いのだという。
「転職によって、社保から国保に切り替えた患者さんがいたのですが、社保のままでした。多少のタイムラグがあるのかなと思いましたが、転職して国保に切り替えたのは、7カ月も前のことだったんです。もう一人の女性の患者さんは、8カ月前に結婚で名字が変わっているのに、旧姓のままでした」
全国保険医団体連合会の調査でも「産婦人科なので、改姓や保険証変更が多い。マイナ保険証の変更に時間がかかることを懸念している。持参した紙の保険証とマイナ保険証が違うことがある。どちらを信頼すべきなのか」という不安の声が寄せられているのだ。
さらに、井上さんが問題だと感じたのは、負担割合の入力ミスだ。
「本来、2割負担の高齢の患者さんがいたのですが、マイナ保険証の情報では1割負担になっていました。病院側にとっては損失につながる事例です。反対に1割負担が2割負担と間違った情報が入力されれば、患者さんが多く医療費を支払うことになります」
入力情報の誤りは、医療事故にもつながる可能性があるというのは、住江さんだ。
「マイナ保険証には薬歴なども記載されますが、これだけ不具合があるシステムだと心配です。誤った情報を基に禁忌薬を処方されると、命や健康の安全が守られません」
マイナ保険証の情報の誤りが見つかれば、健康組合などで確認するが、
「返ってくる答えは『紙の保険証で確認してください』。24年に廃止したら、確認のしようがありません」(井上さん)
医療現場でのトラブルを未然に防ぐため、デジタル庁では、健康保険証情報が正しく登録されているのかを確認する方法を、WEB上で公開。だが、社会保障に詳しい、関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんが指摘する。
「マイナポータルの端末機を使って、ログインして確認することとなっていますが、スマホやパソコンなどデジタル機器に不慣れな高齢者や、介護を必要としている人などにはハードルが高いです。今後、マイナ保険証で不利益を被る人が急増する恐れがあります」
マイナ保険証を持たない人のために、最長1年期限の資格確認書も発行できるがーー。
「1年後に再度申請する必要が出てくる可能性があります。お年寄りや持病がある人などは申請が遅れる場合もあります。手続き上のミスもあるでしょう。その場合、無保険扱い、つまり医療費が10割負担になってしまう恐れもあるのです」(島澤さん)マイナ保険証によって、国民の健康や命が脅かされるのだーー。