20年間「孤独死ゼロ」を実現させた大山団地・自治会会長の佐藤良子さん
画像を見る 「はい、大山自治会の佐藤です」と相談電話に応える。24時間受け付けること自体が住民の安心感につながると信じる(撮影:五十川満)

 

■「自分が死んだあとのことが心配」という声を受けて始めた“自治会葬”

 

「これは、ひどい……」

 

初めて佐藤さんが孤独死の現場に立ち会ったのは、自治会長に就任してすぐのことだった。

 

「あるとき、『一人暮らしの住人の部屋から異臭がする』と自治会に連絡が入り、警察の検視となりました。これに立ち会うのも、会長の役目のひとつなんです。

 

部屋に足を踏み入れると、かつて経験したことのない臭いと、あえて言いますが、ウジのわく現場の悲惨さに絶句し、立ち尽くしてしまうわけです」

 

その住人は、子供会の活動などに一緒に参加していた仲間だった。

 

「なんで、そんな人がひとりで亡くならないといけないんだ。二度と、団地から孤独死は出さない」

 

誓った直後から、佐藤さんは「孤独死ゼロ作戦」を掲げていく。

 

「もう一度、地域とのつながりの在り方を根本から考え直さねば、と思いました」

 

まずは、電力会社、ガス会社と水道局に協力を依頼した。

 

「使用量が急に減ったり、集金時にいつもと違うことがあれば、すぐに自治会にでも私の携帯にでも知らせてください」

 

同じく地域の新聞、牛乳などの宅配店にも出向く。わずか半日でも商品が受け取られないままになっていたら、異変の兆候とみなすという徹底ぶりだった。

 

さらに孤独死以前の予防策として、認知症の兆候を早期発見するために商店街にも呼びかけた。

 

「支払いや会話に異変があれば知らせてほしいと。その状況を、役所とも連携して、民生委員や離れて暮らす家族に伝えるシステムも作りました」

 

やがて住民の間にも、誰も孤独死させないとの意志が行き渡る。

 

「冬なのに窓が開けっ放し、きちょうめんな人が洗濯物を取り込んでいないなどと、連絡が届きました。

 

あるとき、78歳の独居の女性が飼う犬が鳴き続けていた。いつもおとなしい犬なのにと異変に気づいて隣人が声をかけても、ドアホンを押しても反応がない。

 

まず親族、続いて消防署に連絡して、はしご車で3階のベランダから部屋に入ると、トイレで倒れている女性を発見でき、救急車で運ばれて事なきを得たというケースもありました」

 

孤独死ゼロ作戦が続くなか、住民から起こった声をもとに、大山団地独自の新たな取り組みも始まる。それが“自治会葬”だ。

 

「高齢化や独居が進むなかで、住民から『自分が死んだあとの葬儀が心配』という声が多く聞かれるようになります。たしかに民間の葬儀会社に頼むと、一般葬なら150万円くらいかかったりする。自治会が主催してやり、会場も団地内の集会所を使えば、市から借りる祭壇と棺桶代と車代など総額5万円程度で済みます。頼まれれば、私が葬儀委員長もしますし」

 

自治会葬が増えていくなか、さらに佐藤さんの発案で誕生したのが「終焉ノート」だ。

 

「元気なうちに医療や葬儀、財産に関すること、危篤や死亡時に連絡してほしい人のリストなどを書き込むようになっています」 最終ページには“遺影写真袋”まで付く気遣いも「会長さんらしい」と評判になった。

 

こうして、大山団地では2004年からは孤独死ゼロが続き、今年でちょうど20年となる。

 

「住民が困っているなら、困らない仕組みを作ればいい。行政がすぐにできないことをやるのが、私たち自治会なんです。

 

孤独死ゼロや、簡便ながら心のこもった自治会葬が広く知られ始めたころは、この制度に賛同してうちの団地へ引っ越してくる高齢者も多かったものです」

 

一時は入居希望の倍率が14倍にもなり、その人気はいまも続いている。

 

【後編】「向こう三軒両隣」は私が守る!マンモス団地の女性自治会長の奮闘へ続く

【関連画像】

関連カテゴリー: