■「戦争を知る政治家がおらん」。記憶の風化を懸念
「もし戦争がなかったら、親父も『ええお父ちゃん』として、穏やかに暮らしてたんとちゃうかな」
戦後、多くの復員兵が“戦争トラウマ”に苦しんだが、精神的な疾患を“恥”と捉える風潮もあり、全国的な調査は進んでいなかった。2024年、厚生労働省はようやく患者のカルテや記録文書を通じた実態調査に乗り出す。その成果は、今年7月から戦傷病者史料館「しょうけい館」で特別展示されている。
現在も、沖縄戦のトラウマに苦しむ患者を診ている精神科医の蟻塚亮二さんはこう語る。
「私の父親も、復員後は人付き合いを避け、会社で働くことができなくなりました。戦争トラウマの症状は人によって異なりますが、さまざまな形で家族や子どもにまで連鎖します」
父に殴られて育った征平さん。
「僕は、自分の子どもを強く叱れなかった。どうしても、親父に殴られた記憶を思い出すからです」
征平さんの長女・長男は、父の背中を見て育ち、ともにテレビ業界に進んだ。
一方で、暴力にさらされて育った子どもが、さらにその子どもを虐待するなど、戦争トラウマは世代を超えて連鎖する事例も報告されている。戦争トラウマの影響は、戦後80年たっても終わっていない。征平さんが今懸念しているのは、まるで戦争に向かっているかのような、この国のきなくさい空気だ。
「国会には、戦争を体験した政治家がほとんどおらん。だから、本当の戦争の恐ろしさをわかってないんとちゃいますか。それに、いまの若い子たちは、戦争をゲームみたいに感じているかもしれません。戦争は、そんなもんやない。絶対にあかん、ということを伝えていこうと思っています」
講演活動や大学の授業でも、戦争の悲惨さを伝えてきた。
「そろそろ、成人を迎えた孫たちにも話しておこうと思っているんです。でも、『じいちゃん、いつもの楽しい話をしようや!』と言われてしまうやろうな」
そう言って、目を細める征平さん。当たり前の日常が、ずっと続くように。二度と、戦争が人々の人生を変えてしまわないように。父母の思いを胸に、征平さんは100年しゃべり続ける覚悟だ。
(取材・文:和田秀子)
画像ページ >【写真あり】戦地で壮絶な体験をしたころの父(他3枚)
