■大型スーパーと同じことをしても「こりゃダメだ」と思い知らされた
2002年、道之助さんは店を改装し、売場面積を倍の広さに拡張。そして、自家製の総菜を本格的に販売し始めた。敬子さんが言う。
「以前もね、うちは“試食のできる八百屋さん”って、業界誌なんかで取り上げられていたのよ。新しく中国の野菜なんかが日本に入ってきたりして。『こうやって食べるとおいしいですよ』って、食べ方を教えるために、料理を作って試食してもらってた。そのうち、お客さんから『もっと総菜を売って』と声が上がるようになってね。娘も調理学校を出ていて、料理が得意だったし。『それじゃ、総菜販売、始めようか』って感じだった」
長女・佐千子さんは「そこは会長の作戦どおり」と笑う。
「子どもの将来のビジョンを描き、レールをきっちり敷くのがうちの父だから。長男は果物、次男は野菜、それで私は総菜と。だって私、18歳で総菜が人気のスーパーに、修業に出されましたからね(苦笑)」
ところが、その直後。作戦に誤算が生じたのか、店は苦境に立たされる。道之助さんが述懐する。
「バブルがはじけちゃってしばらくたつと、近所に大型スーパーが10店ほどもできてね。そのときは、うん、ちょっと大変だったよね」
商店街でも、営業を続けることを諦め、店をたたむ仲間が続出した。現社長の正道さんも「あのころは正直、きつかった」と話す。
「あれは20年、いや、15年ぐらい前かな。うちもお客さんが3割、いや4割近く減っちゃった。そんな時期がしばらく続いたよね」
道之助さんたちは、核家族化が進む客層の変化にも対応すべく売り方を変えるなど、試行錯誤を繰り返した。正道さんは言う。
「八百屋ならではの“皿盛り”、あれを一時期、やめたことがあった。一人住まいの人も増えて、お客さんも少量しか買わなくなってきてたから。ほら、最近も小型スーパーなんかが、きゅうり1本とかみかん1個ずつとか売ってるでしょ。そういう売り方を、うちも取り入れたんです。
でもね、それやったら、ますます売り上げが落ちちゃったの。それまで1日10ケースは売れてた野菜や果物が、1ケースしか出ない。10分の1になっちゃった。『こりゃダメだ、うちがスーパーと同じことしても』って思い知らされた」
そのほか、徹底的に経費削減を実施。そして、改めて仕入れの重要性についても見直したという。
「父もやってきたことだけど、そこがいちばん大事なことだと思う。市場の人間関係をもう一度、築き上げることに力を入れました。バーベキュー大会なんかを開いては、仕入れ業者の若い人を呼んでごちそうしたりして。
くだらないと思われるかもしれないけど、じつはこれが大事なんだ。ごちそうになった人たちが『柿沼さんに何かお返ししたい』って思ってくれて、それで掘り出し物の、安値の野菜や果物が、僕の場合は果物専門だけど、回ってくるようになった。
そうやって安く仕入れることができて初めて、安く売れる。そして、そのやり方を、いま野菜の仕入れをやってる甥の優助もちゃんと踏襲してる。だからいまもうちは、あんな、お客さんが驚くような値段がつけられるんだよ」(正道さん)
次男・敏治さんの三男・優助さん(24)は、小学生のころから店の手伝いをしてきた。そして、18歳から市場に出向き、野菜の仕入れを担うように。
「おじいちゃんの時代から『よいものを安く』でやってきたから、それは守りたい。
でも、物価がどんどん上がるなか、従来どおりの安値販売を続けていると、原価率がとんでもないことになっちゃって。このままだとヤバイと思って取り組んだのは、大手卸売業者さんの、自分と同世代の人たちとの人間関係を作ること。
大手の業者って、大型スーパーが主な取引先で、僕らみたいな小売店は相手にしてくれてなかった。でも、大手のなかでも販路を開拓したい1年目、2年目の若い社員さんと仲よくなることで、安価な野菜を卸してもらえるように。
また、彼らがさばききれない品物を抱えて困っているとき、それをうちが目いっぱいの量、引き受けたり。そうやって信頼関係を育んでいきました」
正道さん、そして優助さんに、仕入れの“流儀”を教えたのは、やはり道之助さんだ。優助さんはこう言って笑う。
「『残り物には福がある』がおじいちゃんの口癖。それに、おじいちゃんは『安けりゃ、たくさん仕入れたって損はしない、売れ残りそうになったら原価で売っちゃえばいいんだ』って発想ですから」
正道さんも言葉を継いだ。
「うちでは現状、30ケースしか売りさばけないと思っていても、そこに50ケース、100ケースの出物があったら仕入れて売る努力をしなきゃ。そうでないと店の成長はないからね。
それはやっぱり父の教えだよね。
父は『そのとき、たとえ損しても、損は損じゃねえ、お客さんが得したと思ってくれたらそれでいいんだ』って人だから。
いまふうにいったらウィンウィン? いや、勝ち負けじゃねえからそこは“ハッピーハッピー”だよね」
(取材・文:仲本剛)
【後編】「家訓は“誠意はものでしか伝えられない”」激安の人気青果店が“19人の大家族経営”でも揉めないワケへ続く
画像ページ >【家系図あり】総勢19人の柿沼さん家族「柿沼家の子どもは小学生のころから、お小遣いをもらって店を手伝ってきた」(正道さん)(他4枚)
