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「役者にも当然悲しいときも苦しいときもある。悲しみを希望に、苦しみを勇気に変えてパフォーマンスをする。僕たち役者はそれしかできないんですね。それでお客様が笑ってくださったり、拍手をしてくださったり、掛け声をかけてくださったりすると、うれしいですよ。その苦しみも悲しみも吹っ飛びますよね」

 

そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第58回のゲスト・歌舞伎俳優の松本幸四郎さん(73)。知的で冷静なのに、朗らかで話し上手。バイタリティがあり、いつまでも若々しく生き生きしている歌舞伎界の重鎮・幸四郎さん。中山とは公私にわたり、知己の仲の幸四郎さんに、あらためてじっくりとお話を伺いました!

 

中山「梨園に生まれたからには、小さいときから礼儀やしきたりを厳しく教育されますよね。幸四郎さんの初舞台は3歳。素直に始められるものですか?」

 

松本「初舞台に出る寸前に、おふくろの胸にすがって『嫌だ!!』と泣きわめいたそうですよ」

 

中山「同級生たちは野球やサッカーなどもやっているなか、歌舞伎のお稽古があるわけですよね」

 

松本「部活もダメだし、野球もサッカーもスキーもさせてもらえませんでした。今にして思うとそれは『いい芸のために必要じゃないことはしなくてもいい』という教育方針だったように思うんです。ですが、子どもにとってはつらくて、無表情ののっぺらぼうの子どもだったようです。さっきも撮影のときにカメラマンに『もう少し笑っていただけますか?』と言われました。精いっぱい笑っているつもりなんですが、笑えなくなっちゃった」

 

中山「子どもらしくないお子さんだったんですかね?」

 

松本「嫌な子どもだったと思いますよ。小学校から高校まで一貫校に通っていましたが、いじめっ子に『男のくせにおしろいなんかつけて』と冷やかされて、嫌で嫌で仕方なかった。普通だったら嫌なことから逃げようとして、ほかのことをしようとか思うものなんですけど、僕は『こんなに嫌なことがあるなら、もっと嫌なことに自分の身も心も突っ込んでみよう』と覚悟を決めたんです。そしたら……、嫌なことがもっと嫌になりました(笑)。でも、何年かするうちに、学校でのつらさが苦ではなくなってきた」

 

中山「そうか〜、歌舞伎のほうがつらいと思っているから……(笑)」

 

松本「中学生のときに『あぁ、仕事をする、働くっていうのはこういうことなのか』とぼんやりわかってきたんです。一人前になるためには芸を身につけなきゃならない。自分はアルティザン(職人)にならねばならないんだとそのとき思ったんです」