劇団四季退団後、再始動! 石丸幹二が宮本亜門作品出演!
「これ、観た人に短刀突きつけるような話だと思うんです。短刀じゃなくても、何か、懐の中にグッと入ってくるような。観終わった後に陶酔感もあるし、刺激が欲しい人にはいいかもしれない」
ピューリッツァー賞に輝く傑作ミュージカル『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』が、7月5日から、東京・パルコ劇場で上演中だ。主演の石丸幹二(43)は、とても意欲的だ。
今回、石丸が演じるのは、31歳で夭逝した画家のジョルジュ・スーラ役。
「劇中では、公園に金持ち、労働者、兵隊、恋人たち、親子、犬とありとあらゆる階級や世代の人々が登場し、それぞれの人がすごく自己主張して、不協和音を繰り広げる。これって、なんだか今の日本と真逆な感じがする。ほら、僕たちって割と横並びをすることで安心しているところがありますよね。この芝居には『我こそは』って人がいっぱい出てきて、言ったもん勝ち。こういう生き方のほうがかっこいいんじゃないかな、と」
彼らの様子を真剣にデッサンするジョルジュ。真っ白だったキャンバスは、様々な色の絵具が点描で加えられ、しだいに構図が定まっていく。
それぞれの人が奏でる不協和音はやがてハーモニーに変わり、大きなうねりを創り出す。
「元々、ソンドハイム作品はちょっと変わってて好きなんです。とにかく大人たちが共感できる作品。登場人物たちのちょっとズルイ面を自分に照らし返してみて、あ、俺もこんなことやってたよなと思えるような……、きれいごとじゃすまない話です。僕はこの作品をNYでのリバイバルで観て、鳥肌がたった憶えがあるんです。元々のオリジナルは紙芝居的なんですが、今回、演出の宮本亜門さんが映像を駆使して、すごく立体的で、3Dの中にいるみたいになる。入ってみたらどうなるのか今から楽しみなんです」
石丸ジョルジュが絵具でどんな点を打つかで、真っ白な舞台はどんなふうにでも変わっていくのだ。
07年末に劇団四季を辞め、今年から再始動を始めた石丸は、「これは自分の現在の心境に他ならない」とうなずく。
「今、自分の第二章って言い方をしながらいろんな活動をしているんですが、出演作として選んでいるものが結果、今の自分の心情や状況に合ってるものだった。この作品もそうなんですよね。真っ白なところから発想していく過程は、特に。主人公はものすごい壁にぶち当たっていますし」
自分自身、壁にぶち当たって悩んでいた、と本音をポツリ。
「人生の節目の年齢は、不惑とか厄年とか言われますよね。僕も17年間舞台をやってきて、体が、これまでのようなペースで物事を運べなくなってきた。その体に合った動き方をギアチェンジしなきゃいけなくなって。以前、アスリートの人が同じようなことを言っていたのを憶えているんですが、記録が伸びていく速度よりも体が衰えていくほうが早かったっていう。でも、これは次の段階への発想の転換にすればいいことですよね。そういう体で出来ることをやればいいって、前向きに考えようと思ったんです。それで、いったんストップし、足踏みをしてみて、自分に今何が出来るのかなって考えてみたんです」
今までの活動のスピードはものすごく速かった、と石丸。充電期間中、あきらめず、モチベーションを保ち続けることができた理由は、周囲の支えがあったからに他ならない。
「やっぱり周りの力ですよね。自分1人で生きてるんじゃないってことはよーくわかりましたし。今までは、自分だけを見ていたところが多かったんですね。でも、周りに向かって、助けてって言ってもいいんだってことを、友人との会話で教えられて……、その人とは全然別の話をしていたんですが、ヘルプって言ったら楽になったと。それで、自分もそうしてみようかなって。すると、楽になりました。結局、どの人もそれぞれ悩みを抱えていて、周りの人に支えながら生きているんでしょうね」
ある意味、人生のご褒美だったこの1年。最大の収穫は、
「こんな言い方するとおこがましいんですけど、普通に生きている人間としての自分を取り戻せた、そこが大きかったですね。こういう仕事していると、周りとは違う時間軸で動くことが多いんですね。それが朝、世の中が起きる時間に起きて、社会が動いている中に身を置いてみました。自分も社会の1人なんだって気分を味わうことは面白かった。なにより、そこが欠落していたんですね」
自身の足元を再確認できたことは大きかった。
「それまで時間の制約があってできなかったことに、自分を開放したんです。旅行にも色々と行きました。思いつくまま電車に飛び乗って、着いたら鬼怒川温泉だったとかね。鬼怒川下りまでやっちゃいました(笑)。偶然乗り合わせた人たちとおしゃべりしながら」
よほど楽しかったらしく、少年のように目がキラキラ。活動を再開してからは、1月の朗読劇『イノック・アーデン』、3~4月の『ニュー・ブレイン』と舞台を務め上げ、フランスにレコーディングにも行ってきた。
「リモージュって焼き物の町に行ったんです。でもほとんどスタジオに缶詰で、観光といえば、ホテルの広大な庭をずっと眺めたり。周囲は、のどかな田舎の風景が広がり、僕自身、自然が何より好きなので、ずっとここにいてもいいなと思えるぐらいだった。スタジオは農家を改装したもので、そこで生活もできるほど設備が整っていたんです。地下にはワイン蔵まであった(笑)」
普段は、海外に行くと必ずというように美術館にも足を運ぶ。
「そこでしか得られない、本物の力ってあるじゃないですか。観続けるってことは自分にとっては大事なことであるし、これからもやり続けたいこと。今回のミュージカルのモチーフになっている絵ではないんですが、スーラの絵画も、以前パリとロンドンで観たことがあります。点描って面白いなと思ってた。それが結局こうやって演じることにつながっていって、縁ですよねえ」
何も描かれていない真っ白なキャンバスに挑戦する石丸。デザインによってもたらされた秩序で、今稽古場でもハーモニーが生まれてきた、と話す。
「亜門さんの持ってらっしゃる吸引力だと思うのですが、例えば、休憩中の雑談の中でも、彼が何か話し出すと、みんな、耳を傾けてしまう。すーっという感じで。劇団育ちの僕には何もかもが新鮮な経験で、そういう瞬間も楽しいんですね。転校生としては、これからどんなことが出来るかってところです」
―初対面での第一声間違えると一生転校生のままですよね? そこはどう切り崩したんです?
そう突っ込むと、「はっはっは」と笑って、
「やっぱり自分を開放することでしたね。こんな俺ですけど見て下さいって。見せつけてるわけじゃなくって、稽古の時間って結構短いので、いつまでも、コートをまとってる時間ってないんですよ。どの人も1人がバーンと脱いだらみんなでコートを取って、とりあえず作業しようぜってなる。目的はみんな一緒だから。良い作品創りあげようと思ってるので」
稽古が終わり、先に帰る共演の石井一彰君の髪にテープがついていたのに気付いた石丸は、やさしく指摘。
「あれはもし自分だったら嫌だなって思うから。同じカンパニーの人間で、それぞれみんな気を配り合ってます。鏡越しにコミュニケーションとったりとかね」
このチームワークがあるならもう大丈夫!
「みんないい意味で、緊張してますよ。すごく深い人間ドラマなんです。その心の襞をひとつひとつきちんと演じていこうと思ってます。きっと今までとは違う石丸幹二がご覧頂けると思います。温かく見守っていただければ」
石丸幹二
いしまる・かんじ ’65年8月15日生まれ、愛媛県出身。
’90年、劇団四季『オペラ座の怪人』ラウル・シャニュイ子爵役でデビュー。
’07年12月劇団退団後、1年の充電期間を経て、’09年1月より活動再開。朗読劇『イノック・アーデン』、『ニュー・ブレイン』と舞台を努め上げ、今回が3作目。9月12日より『コースト・オブ・ユートピア - ユートピアの岸へ』に出演。
東京・パルコ劇場にて8月9日まで公演中
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