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吉本ばなな(以下=ばなな) ジョン・キムさんにお会いしたのは昨年1月だったでしょうか。思ったとおりの方で、すごく嬉しかったことを覚えています。

 

ジョン・キム(以下=ジョン) 私がオンラインサロンを立ち上げようと決めた夜だったと思います。 決意をFacebookにアップしたら、ばななさんが私の本を読んでくれたとコメントしてくださったんですよね――。

 

《私はこのまえがきを、自分の長いまえがき人生の中でも最高に力を入れて書いている。いつかこのまえがきがジョン・キムを支える、そんな気がするから》

 

そんな吉本ばななさんの力のこもった書き出しで始まる『ジョンとばななの幸せって何ですか』(光文社刊)が、1月18日に発売された(一部地域を除く)。本誌連載でおなじみのジョン・キムさんと吉本さんによる対談集で、世界を見てきたふたりがその経験をもとに「幸せとは何か」を問いかけている。

 

昨年1月にFacebookで出会ってからちょうど1年、ふたりが改めて“いま本当に必要な心の在り方”について語ってくれた。

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ばなな 私は一方ではキムさんを自分の甥っ子みたいにかわい~く感じていますが、一方ではとても尊敬しています。思索をするのが好きな人は多くいますが、それを行動に移してこそという思想性はキムさん特有だと思います。

 

ジョン まえがきにも書かれたと思いますが、最初はばななさんの考えなどがまったく読めなくて、 自分のすべてが見抜かれている気がしました。ただ、ばななさんは作品を読んだときも実際おつき合いをさせていただいてもそうですが、常に「一番光が当たらない部分に光をあてること」を自分の使命としてやっている印象が僕には強くあります。

 

僕が潜水艦だとして、燃料がなくなってもう沈むしかないというときに海底で燃料を持って待っていてくれる。そしてもう一度水面に浮上できるきっかけをくれるというイメージです。

 

ばなな キムさんが主宰するオンラインサロンに参加したときは、そういう意識があったと思います。 あの世界には笑いを持ち込まないと、目的意識が中心になってタイトになってしまうので、笑いを提供しようと思いました!

 

でも、たしかに私は小説家としても読者に見えにくいものを伝えるようでありたいし、私と直接関わる友人知人にはさらにその人の状態をちゃんと伝えてあげたいと思っています。

 

ジョン ばななさんは自分との出会いによって、相手が自身をより愛せるようになるにはどうすればよいかを考え行動している。人間には自分を眺めるときの死角があると思いますが、そこを鏡となって見せてくださるんです。

 

ばなな それは私の使命と言っても過言ではないと思います。人間って生きているだけで強欲だし、他の命を奪って食べているし、他の人の場所を取らないと成功できないものだし。だからこそ小さくなっちゃうのではなく、他者に接するときには「良い気」だけをあげたいのです。

 

著書では3歳まで左目がほぼ見えなかったという吉本さんや、救急車で救急搬送されたというキムさんのエピソードも語られている。“激動の半生”を生き抜き、何かを経験するたびにそこから「幸せ」を見出してきたというふたり。この本でいちばん伝えたかったことは何なのか?

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ばなな これまでいろいろな場所で自分を鍛錬してきたふたりがいる。いっぽうは文学の世界でエリートコースを歩んでいないし、いっぽうはたとえば韓国の若者にとっていちばんたいへんな兵役には参加していない。少しはずれているふたりかもしれない。

 

しかし独自の道を切り開くため、誰にも言えない部分でたいへんな鍛錬をしてきた。そんなふたりが出会って分かり合い、本当にしたければ人生は自分の思う通りにしていけるということを伝えられる。そんな本だと思います。

 

ジョン ばななさんのすごいところは、人間が抱くあらゆる想いや感情を、それがどんなに残酷で現代社会からして理不尽で不謹慎なものであっても、隅々まで理解しきった上で思索をスタートさせていることだと思います。

 

決して、能天気な楽観主義ではない。絶望的な人間の性から希望を見出そうとしていて、そこに自分が何らかの形で役に立とうとしている。

 

ばなな あらゆる人たちを危険な目にも遭いながらじっと観察してきたからかもしれませんね……。 その上で小説というものにできることは、希望を描くことだとも思っています。

 

ちなみに私は、キムさんは人生のサバイバーだと思っています。想像を絶する思いを超えてきた人。最近になってサロンで親友たちに出会い、やっと少しだけ気持ちが緩んだんじゃないかなあ。それは私にとってもすごく幸せなことです。かといって思索の力を緩めたりしないのも頼もしいし、これからどうなっていくのかが楽しみです。キムさんは、どういう人にこの本を読んでほしいですか?

 

ジョン 自分に自信が持てない人たち、人生に希望を見出せない人たち、一生懸命に努力はしていてもそれが自分の目指す未来につながるかどうか不安な人たち、そして自分の目指す未来はなんなのかと疑問を持っている人たちに読んでほしいですね。

 

あと幸せの種を自分の外で探そうとして裏切られ苦しんでいる人たちにも。鍵は自分の中に落ちていますから。「探しているところが間違っていますよ」というメッセージが伝わったら嬉しいです。

 

ばなな そうですね。自分の人生は自分で創っていくものと思ってほしいし、そのためには自分の内面を探すしかないということにも気づいてもらえたらいいですね!

 

テロの連鎖や人質事件など悲しい出来事が多かった昨年。そして2016年を迎えたいま、私たちはどうあるべきなのか。ふたりが見据えているものについて、こう語る。

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ジョン 私は、2016年は愛と慈悲が溢れる1年になればいいと思います。人間はそれぞれ違うわけだし、違うからこそ素晴らしい調和が生まれる可能性がある。だから、広い意味での「対話」の意味や価値に気づける1年になればと願っています。

 

ばなな 私は、自分にとっての本当の幸福についてしみじみと考えました。そこから生まれた私の真の平和というものが、私の周りから世界に広がっていくイメージを大切に持ちたいと思っています。 

 

あと、私はかなりキムさんのことを正確に見ているという自信があるので、ずっとアジュンマ(=韓国語でおばさんの意味)として(笑)見守っていけたらと思っています。キムさん、いてくれてありがとう! あなたのお陰で、私はまたじっくりと考えることが大好きになれましたよ!

 

ジョン 僕も、ばななさんの「甥っ子みたいに感じている」という言葉が嬉しくて、それだけでこの1年を幸せに生きていけそうです!

 

《ばななさんと出会って、学んだことはたくさんあります。中でも私にとってのいちばんの学びは「人間、生きているだけで十分である」ということでした》

 

キムさんは、あとがきでこう綴っている。すべての出会いに感謝する。そんなふたりの姿勢こそ、私たちが忘れがちな“大切なこと”なのかも。

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『ジョンとばななの幸せって何ですか』(光文社刊・1,000円+税)

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