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今年、映画デビュー60周年を迎えた女優の岩下志麻さん(79)。くしくも、その作品『乾いた湖』を監督し、やがて夫となるのが、篠田正浩さん(89)だ。お2人は結婚以来、自立した夫婦の先駆けとして、互いを「戦友」と「同志」と呼び合いながら第一線で活動してきた。120本以上もの映画に出演し、その大半で主役を演じた岩下さんだが、最も多いのが篠田監督とのコンビ。

 

そして、夫婦の間には一人娘がいる。岩下さんが32歳のときに産まれた、待望の長女だ。

 

「30歳を超えたころから、すごい子供が欲しくなったのね。年齢も考えて、そろそろ産みたいと思っていたら、運よく授かりました。母親になっても仕事は続けるつもりでしたから、妊娠した時点で、知り合いのベテラン看護師さんにお世話をお願いしました。出産直後に娘を抱いたときは、これ以上の幸せがあるかしら、と思いましたね。

 

ところが、娘が生後3カ月のとき、篠田の新作『卑弥呼』の台本が届いて、手にした瞬間に母乳が止まってしまったんです。人間の生理って不思議ですね。仕事にバーッと神経がいったと思ったら、もう二度と母乳が出なくなって。以降、娘は人工ミルクで育てました。

 

この映画では、卑弥呼のメークで眉毛をそったので、帰宅すると、異様な私の顔を見た娘が激しく泣きだすんです。だから、抱っこもできない。すごく切なかったですね」

 

「『お嬢さんがかわいそうだから、仕事をやめてください』。あるとき、娘のお世話をお願いしていた方から言われて、私も本当に涙が出ました。女優をこのまま続けていいのかと罪の意識にさいなまれ、鬱っぽくなりました。

 

また、うちの娘は“後追い”しなかったんです。もう、この人は仕事に行くものと、あの幼さで気持ちを抑えている。それが余計にいじらしくてね。しかし、そんなとき、篠田は言いました。『おまえさんから女優を取ったら、何もないよ。やめちゃいけない。女優をしているときが、いちばん輝いているんだら』」

 

励まし続けてくれた篠田監督との77年の『はなれ瞽女おりん』で、第1回日本アカデミー賞主演女優賞を受賞。岩下さんは「これで吹っ切れました」と話す。

 

一方、実生活では娘さんが小学校入学という時期を迎えると、運動会や入学式などの学校行事にはすべて出席。撮影現場から家庭に戻ると、「愛してる、愛してる」とわが子を抱きしめたという。

 

「帰宅して娘にワーッと抱きつくと、すべての疲れが取れました。私は本気で『愛してる』だったんだけど、そのうち小学校の高学年になると、娘のほうが『気持ち悪いからやめて』で、いつの間にかやめましたが(笑)。私が甘い分、篠田は厳しかったですよ。ご挨拶からお箸の持ち方まで。そのおかげで、きちんと育ってくれたかなと思います」

 

今年、突然襲ったコロナ禍は、そんな岩下さんと家族の日常にも大きな変化をもたらした。

 

「このコロナのなか、私は外出を我慢する代わりに、オンラインで太極拳を続けています。先生の指導をパソコン画面で流しながら。おかげさまで、体重は20年間、変化なしです。

 

先日もコロナが少し収まってきたときには、娘や孫たちと外食の話でチラッと盛り上がりましたが、結局やめました。旅行もあきらめましたし。男の子2人の孫たちは、もう中学生と高校生。ええ、いまも私は“志麻ちゃん”と呼ばれています(笑)」

 

岩下さんの長女は、大学卒業後、「両親とは違う世界で生きたい」と一般企業に就職して早々に家を出た。結婚したのも、母親と同じ26歳だったという。

 

「娘は幼いころから自立心旺盛でした。育ち盛りの孫たちの子育てでは、朝5時半起きのお弁当作りに始まり、ぜんぶ自分でやっています。わが子ながら偉いなぁと思うし、私が反面教師かも。

 

彼女自身、やっぱり『岩下志麻と篠田監督の娘』として、イヤな思いもしたと思うんです。ですから、孫たちも『岩下志麻の孫』とは言われたくないと考えたのでしょう。残念ですが、孫の運動会には一度も誘われませんでした。

 

でも、娘が子供のお誕生日をきちんとお祝いするところや母の日にカーネーションを贈ってくれるのは、私の習慣を受け継いでくれているのかな」

 

「女性自身」2020年10月20日号 掲載

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