「今回、桃のエキスには、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの脳・心血管疾患を予防する効果があることを解明しました」
そう語るのは、和歌山県立医科大学の宇都宮洋才准教授(50)。この研究は、宇都宮准教授のほか、国立和歌山工業高等専門学校の奥野祥治准教授(39)などで作る共同研究チームによって行われたものだ。7月には、イギリスの食品化学専門誌「フード・ケミストリー」に論文が発表され、世界的にも話題を呼んでいる。
「和歌山には、桃を食べると肩こりが治るとか、血液の流れがよくなるという言い伝えがあります。血液の流れは、高血圧や動脈硬化などに大きく影響します。それが今回の研究に結びついたのです」(宇都宮准教授)
地元の伝承をヒントにした研究の結果、桃には高血圧や動脈硬化などの原因ホルモンといわれる「アンジオテンシン2」の働きを抑制する効果があることがわかった。ジュースでもアイスでも、桃の果汁100%であれば、その効果はかわらないという。さらに女性にとってうれしい効果もあった。
「これも言い伝えなのですが、和歌山では、桃を食べると肌がスベスベになったり、肌荒れを治すといわれています。今回の研究では、桃のエキスが『アンジオテンシン2』の活動を大幅に抑制することで、活性酸素の発生が抑えられることも判明しました。活性酸素は肌の老化の大きな原因といわれるものです。つまり桃を食べれば美肌につながるということです。まさにこれも言い伝えどおりでした(笑)」(同)
ところで、なぜ和歌山で桃の研究を? なぜ桃の言い伝えが? と疑問に思った人も多いのではないか。じつは和歌山は、山梨、福島に並ぶ桃王国なのだ。
「和歌山の桃の代表は、実験でも使用した『あら川の桃』です。外見は岡山の白桃に近く、真っ白な桃に少し赤が交じっているのが特徴です。味は岡山の白桃があっさり甘みが抑えられているのに対し、和歌山の桃はやわらかくて甘みが強いのが特徴です」(奥野准教授)
関東では意外と流通が少ないという和歌山の桃。しかしその味は他の名産地に勝るとも劣らない味わいだという。
「私は和歌山の桃が日本一おいしいと思っています。でも、実際に山梨や福島、岡山と比べると和歌山の桃の知名度は低い。そこでこの研究をきっかけに、和歌山の桃を日本中の人に食べてもらって、そのおいしさを実感してほしいのです」(宇都宮准教授)