いま、自由診療メインの歯科医院を中心に、口まわりのしわとりを目的としたヒアルロン酸注射を施術する歯科医が増えている。「えっ、歯科医がしわとり?」と驚く人も多いだろう。その実情をあるデンタルクリニックの歯科医師は次のように話す。
「もともとは美容外科で行われているものですが、口元に関しては歯科医も適用範囲内と考え、実施しています。患者さんからも、わざわざ美容外科に行くのはハードルが高いけれど、歯科でやってもらえるならと好評です」
このクリニックでは1回の注入の料金が3万円前後。しわが目立たなくなる効果は数カ月続くという。そもそも歯科医の領域とはどこまでか。’96年に厚生労働省の専門家会議が示したのは、口唇、頬の粘膜、歯槽、舌、顎の骨などだが、この口唇部が左右のほうれい線までの口のまわり全体と解釈されているのだ。
「ヒアルロン酸注入は体への副作用も少なく、比較的簡単な医療行為。またトラブルの症例も出ていませんし、英国歯科医師会などでも使用の制限をしていません」(前出・歯科医師)
そこで、日本歯科医師会にその是非を聞いた。
「口唇は口腔領域の一部としてとらえられており、その部位に対する処置は歯科医療の一環と考えることができます。このことにより、歯科医師による口唇周囲の皮膚への注射の行為がただちに医師法違反となるわけではないと考えています。しかし、ヒアルロン酸注射行為に課題があることも理解しているので、関係領域の医師と連携も必要ではないかと考えているところです」
一方、歯科医療を所管する厚労省歯科保健課担当者に聞いてみると、微妙に食い違う点が……。
「一般の人がしわとりを歯科の範疇と考えるかがポイント。そういう人が少ないとしたら、歯科医の医療行為を逸脱していると考えます。ただ歯科のヒアルロン酸注射には、後退した歯茎を回復させるなど、それは医療行為と判断できるものもあり、線引きがたいへんむずかしいのが実情。今後の推移を注視していきます」
ヒアルロン酸注射を受ける場合にも、治療実績など、慎重に歯科医を選ぶ必要がありそうだ。