「スポーツ団体競技の世界では、よく『大番狂わせ』といわれるドラマティックな展開があります。実は、チームが勢いを失ったり、流れに乗れなかったり、あるいはミスを連発するなどの背景には、自律神経の乱れの伝播が関わっているのです。自律神経のバランスがいい人は、本人のみならず周囲の人たちにも好影響を与えます。しかし、反対に、自律神経のバランスが乱れている人がひとりでもいれば、そのチーム全体に影響が及ぶ−−。いうなれば『負の連鎖』が起こってしまうのです」
そう語るのは、順天堂大学医学部教授で自律神経の第一人者・小林弘幸先生。その連鎖を裏付けるような実験を、イギリスのサセックス大学医科大学院の精神科医の研究チームが行った。実験では、「氷水」が入った容器に手を入れた映像を見たときの、ボランティア36人(うち女性23人)の手の温度を測定。
「その結果、映像を見ているだけなのに、ボランティアの手の温度が最大で0.2度も上昇。映像を通して冷たさを感じる反応が伝わり、みんなの体温が上がったのです。実験を主導したニール・ハリソン教授は『温度の変化に対する他人の反応で、自分の体温が変化する』ことを示し、さらには『寒いと感じるなど他人のネガティブな感情に、人は敏感になる可能性がある』とまで述べています」
この研究結果を、小林先生は「ネガティブな感情=自律神経の乱れほど、周囲に伝わりやすい」と読み取っている。
「私たちも手術する際は、看護師や麻酔医などとチームを組みます。ところが、いつものメンバーでも、その日の体調や気候などの影響で、誰かの自律神経のバランスが崩れていることがあるのです。その結果、『負の連鎖』が起こり、手術がスムーズに進まないことがまれにあります」
この状態を放っておくと、より大きなミスにつながる可能性も。
「そこで、リーダーである私は、手術する手を止めてでも、メンバーと一緒に、こんな呼吸法で『負の連鎖』を断ち切るようにしています。(1)4つ数えながら鼻から息を吸います。(2)8つ数えながら、口から息を吐き出します。(3)10回ほど繰り返します。ゆっくり長く息を吐くことがポイント。この『4・8呼吸』は副交感神経の働きをアップさせます。腸の蠕動運動も促し、血行も改善。心身ともにリラックスできるのです」
自律神経の乱れ伝播は、家族や恋人同士でも起こるそう。ネガティブ感情を引きずらないように「4・8呼吸法」で素早く対処しよう。