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「トイレで思いっきりいきんでもほんの少ししか出ない!」

 

人知れず“お通じ”のことで悩みを抱える人は推定で1,000万人いるとみられている。これまで日本では、便秘は病気とはみなされず、医療機関に相談しても効果的な治療がなされないことが多々あった。自己診断で市販薬に頼って“下痢と便秘”を繰り返して症状を悪化させる人、あるいは、便秘の原因となる深刻な病気を見逃してしまう人までいるという。

 

「ただの便秘と思って放っておくのは危険です。大腸がんなどの病気や薬の副作用を見逃してしまうこともあるので、苦しいときには我慢しないで医療機関を受診することをお勧めします」

 

こうアドバイスするのは、横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室の中島淳主任教授。ただでさえ病院で自分の便通のつらさを話すことに抵抗のある人は多い。しかも便秘についての“正しい知識”を持たない内科医がいて、門前払いになることもある。

 

そんな現状を変えようと、消化器内科・外科医らで組織する「慢性便秘の診断・治療研究会」が、昨年10月に日本初の『慢性便秘症診療ガイドライン』(南江堂)を作成した。

 

特に危険なのは高齢者の便秘。厚生労働省の国民生活基礎調査(’13年)によると、便秘に悩む人は60歳までは女性に多いが加齢とともに男性が上回る。介護世代にとっても知っておくべき知識だ。

 

「筋肉の量も食事の量も減るので高齢者は便秘になりがち。しかも、硬くなった便が原因で大腸に穴が開く病気(宿便性大腸穿孔)になる人も増えてきました。高齢者の便秘は命に関わること。早急に診断・治療体制を整えなければと決断したわけです」(中島先生)

 

元来人間の体には、朝食後に、腸が動く大蠕動が起きて排便するという規則正しいリズムが備わっているが、忙しい現代人は、通勤でトイレを我慢したり出先で用を足せなかったりして「便秘になりやすい生活」が根付いている。さらには、ほかの病気の薬の副作用で便秘の症状が出ることもある。いま問題がないという人でも、人ごとではない。

 

そんな、便秘の「予防と治療」新常識を中島先生が解説してくれた。

 

【質問】便秘にいいハーブをよく買うんですが、自然由来だから毎日飲んでもOK?

【回答】飲み続けると症状を悪化させることがあります。

 

「『お腹が張って苦しい』というときに、薬局に駆け込み、センナ、漢方薬の大黄、アロエなどが由来の市販薬を買い求める方も多いと思います。ここで問題になるのは添付の説明書を読んでいないこと。しっかり『習慣性になるので毎日飲まないように』と書いてあるのです。これらは『アントラキノン系下剤』と呼ばれ、頓服薬として飲むのはよいのですが、長期にわたり服用すると、腸が黒ずんだり動きが悪くなったりする症状『大腸黒皮症』を起こすことがあります。加えて自力で排便ができなくなる下剤依存症になれば、回復に何年もかかってしまうことがあるので、ご注意ください」(中島先生・以下同)

 

【質問】母親の介護をしています。便が出ない日は、かわいそうなので酸化マグネシウムを飲ませるんですが、市販薬だから大丈夫ですよね?

【回答】医療機関で相談してください。腎臓が悪い人は死に至るケースも。

 

「酸化マグネシウムは重篤な副作用がほとんどないと考えられていました。しかし、因果関係を完全には否定できない死亡例があったことから、厚生労働省は’15年10月、高齢者やや腎臓に持病のある人に注意喚起をするようになりました。ほかに、心機能障害がある人は徐脈または不整脈を起こし、症状が悪化する恐れがあるので慎重に投与するようにと、使用上の注意が明記されています。特に高齢者に投与するときは、定期的に『血清マグネシウム』濃度を測定するなど注意が必要です」

 

【質問】お金はかかりますが、ヨーグルトを食べ続けています。プロバイオティクスのサプリとかのほうがもっと効くんでしょうか?

【回答】治療法としては認められていません。

 

「ヨーグルトで腸内環境を改善させる方法があります。その成分の1つ、プロバイオティクスを飲み続けたところ、便秘解消に有効という論文はありますが、多くが短期間の試験で、エビデンス(科学的根拠)はありません。ガイドラインでは『弱い推奨』にとどめています。どの種類のプロバイオティクスが腸に効くのか解明されておらず、治療法としては提案できないという意味です」

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