「認知症はMCI(軽度認知障害)という予備群を経て発症します。このMCIは生活習慣の改善や運動などで予防することが可能です。MCIを放置しておくと確実に認知症に移行しますが、効果的な予防をほどこすことで、8割の人は認知症に移行しないという報告もあります。ただ、一度認知症になってしまうと根治治療は困難。効果的な予防がいかに重要か、多くの方に知ってほしいのです」

 

こう話すのは「日本認知症予防学会」(以下・予防学会)の理事で、岡山大学医学部・脳神経内科の阿部康二教授。予防学会では「エビデンス創出委員会」を設立。健康への効果を表示している“トクホ(特定保健用食品)”や機能性表示食品のように、効果があると認められたものを予防学会が十分に検証したうえで、認定していくという。「エビデンス創出委員会」の委員長も務める阿部先生が続ける。

 

「医学的に根拠が認められたものについては、一般の人にもわかりやすいように、★の数で表示しています。認定はグレード特AからEまでの6段階。グレード特Aの『確かな効果あり』の★4つから、グレードCの『効果可能性がありうる』の★1つまでがあり、認定された場合は、商品パッケージに表示したり、広告に使用したりすることができます」

 

阿部先生は、こうした食品やサプリ以外にも、大きな予防効果を期待しているものがあると言う。

 

「検証対象には、ヨガやアーユルヴェーダ、化粧をすることで認知機能を高める『美容療法』、アートセラピーやアロマセラピー、植物を育てる『園芸療法』などがあります。とくに『音楽療法』は予防効果が高く、楽器演奏は★3つがつく可能性もあるのです。そして、私が最も注目しているのが『ダンス療法』です」

 

予防学会が★4つと期待しているダンス療法とはどんなものだろう。記者は、神奈川県相模原市にあるダンス教室「利根川Kスタジオ」に向かった。ここで、週4回行われている「高齢者フィットネス」は、認知症の予防効果“特A”が期待されている「ダンス療法」だ。

 

会場では70代を中心に最高89歳までの約20人の女性が、小柳ルミ子のヒット曲『お久しぶりね』や童謡『どんぐりころころ』などの曲に合わせて踊っている。振付を考案したのは、ダンス教室主宰者の利根川久女紅さん(74)。

 

「懐かしい曲だったり、昔から聴き慣れた音楽に合わせて踊ることで、若かったころを思い出し、自然に体が動いてくる。振付は、ふだんの生活動作では使わない筋肉を動かすことを意識しました。また手話を取り入れることで、動作だけでなく、表情で表現することにも力を入れています」(利根川さん)

 

ダンスには、1人ジャンケン(左右の手で右手が必ず勝つようにする)や、片手は親指からグーにして同時に反対側の手は小指から結んでいくなど、脳を刺激するような動きが組み込まれている。

 

90分間にわたるレッスン。アラ50の記者も参加してみたが、想像以上の運動量に、たちまち息が上がってしまった。振付を覚えるのも決して簡単ではない。ときおり飛び出す利根川さんのジョークで、レッスン会場は笑い声にあふれていた。

 

「実は私の両親も認知症でした。でも、父も母も、なりたくて認知症になったわけではありません。当の本人がいちばんつらくて、悲しくて、寂しいのです。そんな両親から学んだ経験を基に、20年前にこのダンス療法を考案しました。実際に認知症が始まっている方もレッスンに参加することがありますが、ここでは“できないこと”を見つけるのではなくて“今できること”を発見してあげたい。そして褒めたり励まし合ったりしながら、みなさんに積極的に心と体を動かしてもらいたいんです。うれしいのはレッスンが終わったあと、仲間同士でイキイキした表情で会話する姿を見たとき、このダンスの効果を実感しますね」(利根川さん)

 

前出の阿部先生が解説する。

 

「もちろん運動だけでも効果はありますが、そこに認知トレーニングも加わることで、さらに脳を活性化させることができます。振付を覚えたり、動作で気持ちを表現したり“楽しく頭を使う”こともダンスのよいところ。なにより、レッスンを通して他者とコミュニケーションを図ることは、認知症予防に最も有効な手段といわれています」(阿部先生)