高知県のある公民館。椅子に座ったお年寄り20人ほどが、ビデオの画面を見ながら、みんなで元気よく腕を上げ下げしている――。彼らが実践しているのは「いきいき百歳体操」というもの。
「高齢者が、できるだけ長く要介護状態になることなく、健康で暮らせるようにと開発したのが、『いきいき百歳体操』です。はじめて1年は参加者も少なく苦労しましたが、いまでは10万人以上がこの体操をしています。しかもこれは、廃用症候群という、お年を取って体が弱り長期間筋肉を使わないでいる人も効果が認められたものなんです」
そう語るのは堀川俊一高知市保健所所長。堀川さんが中心となり理学療法士、医師が’02年につくりあげた体操は、現在、全国42の都道府県、1万カ所以上の施設で教室が開かれている。
「いきいき百歳体操」のきっかけとなったのは、’00年の「介護保険制度」開始。これによって、要支援、要介護1の認定者が急増した。堀川さんは、米国国立老化医学研究所が、世界中の高齢者の運動やトレーニングに関する研究を調査した『50歳からの健康エクササイズ』に注目した。
「高齢者に“筋トレ”をすすめているその本には、90歳以上の人が運動を3カ月続けたところ、筋肉が2倍になったという記述があって正直、驚きました。本当かな? と(笑)。しかし、虚弱になった高齢者を再び元気にする方法をずっと考えていた私にとって、それは目からウロコでした」
そこで堀川さんは本をもとに、手首と足首におもりをつけて、椅子に腰かけたまま運動することで、筋肉とバランス能力を高めるプログラムを作った。最初は20人を集め、週に2度プログラムを行うことから始まった。
「3カ月間実施したところ、参加者の筋力が平均で2.2倍にもなったんです! とくに、つえをついていた96歳の女性が、小走りしたのは忘れられません。脳卒中の後遺症で、体の半身にまひが残っていた人が、1人で歩けるようにもなりました」
効果を実感した堀川さんたちは、3年で20カ所、定期的に体操を開催することを目標に掲げた。
「これまで、多くの介護予防プログラムがありましたが、住民主体で広がったものはなかった。そこで、市の職員が、96歳のおばあちゃんが走ったビデオを持って、『介護予防の話をさせてください』と、地域を回ったんです。少しずつボランティアの声が出始めて、体操の効果を実感する人も増えていき、結果的には3年間で90カ所、目標の4.5倍の数を達成することができました」
「うちの町内会でもやりたい」と住民の口コミでさらに広まり、高知県以外の大阪府や滋賀県からも声があがるようになった。しかし、爆発的に参加者が増えた理由は、それだけではないと堀川さんは話す。
「体操で毎週顔を合わせたあとには、“2次会”としてお茶会やカラオケなどが開催されるんです。ときには、休んだ人の様子を参加者が見に行ったり、保育園児たちと体操を交えながら、多世代にわたって交流したりするなど、住民が自主的に行動しています。体を動かしたあと、人と交流し心も明るくなれる。そんなアクティビティも、人気に一役買っているのかもしれません。実際、10年間で約8割のグループが体操を続けてくれています」
体操を通じて行われるコミュニケーションは、元気に長生きする秘訣でもあるようだ。