ここ最近、よく話題に挙がる「男性はげたを履かせてもらっている」説。今夏発覚した東京医科大学の不正入試問題では、男子学生に加点するいっぽうで、女子学生は減点していたことが明らかになった。
平成も終わろうとしているこの時代に、「男性にげた」どころか、いまだに女性というだけで「逆げた」を履かされる残念なニッポン。そんな「逆げた」の存在について考えるときに見過ごせないのが、女性にだけ訪れるアレ――。そう「生理」だ。
女性活躍がしきりに叫ばれるいっぽうで、「出産」という生命の一大イベントと密接に関わる「生理」は、「逆げた」の大きな要因になっているにもかかわらず、なぜかタブー視され続けている。
あまりに身近な存在のため女性自身も無自覚になりがちだが、その苦労を女性が「自己責任」であるかのように背負わされ、男性は「知らなくて当たり前」とされるのはいったいなぜ? 改めて考えると「シンプルに不思議」!
これからの時代に、女性はもちろん、男性も知っておきたい「生理」のこと。現代女性の「生理と生活」をたどろう。
「そもそも月経には、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが関係していますが、とくにエストロゲンが大きな影響を及ぼしています。生理は8~9歳ごろからこのエストロゲンの分泌量が増えることで開始。その後、20代後半で分泌のピークを迎え、45歳ごろから急激に減少。これが更年期の始まりで、卵巣機能が衰え、50歳前後で閉経を迎えるのです」
こう解説してくれたのは。成城松村クリニックの松村圭子院長。そのなかで、現代女性が抱える「生理問題」の根幹となるのが、昔と比べ生涯の月経回数が激増していること。
「もちろん個人差はありますが、戦前ぐらいまでは、女性の生涯月経回数は50回程度でした。これは、初潮が来るとほどなく結婚し、8人、9人と子どもを産むことが『普通』だったため。妊娠中と、授乳中の多くは月経がないので、たくさん子どもを産めばそれだけ月経回数は減少。子宮や卵巣を休ませる期間も長かったといえます。いっぽう現代女性の生涯月経回数はなんと400回以上! 昔に比べて発育がよくなり、初潮が低年齢化していることと、晩婚・少子化がその理由です」(村松院長・以下同)
■アンバランスな10代
「生理が始まったばかりの10代は卵巣も子宮も未成熟なため、排卵も不定期。子宮口も狭く経血がスムーズに出ないので、生理痛がひどい傾向にあります。しかも初潮は早まるいっぽう。100年ほど前は平均14~15歳だったのが、現在は11~12歳にまで低年齢化。小学生にして、つらい生理痛に悩む女のコがたくさんいるのが現状です」
■社会と闘う20代
本来ならば子宮も成熟し、周期も安定してくるのだが……。
「昔と違って一年中どこでも空調が効いていることもあり、現代女性の体は冷えています。冷えは血行を悪くするため、子宮内膜で分泌される生理痛の原因物質が、いつまでも滞ることに」
さらに、20代は多くの人が社会に出るころ。生活環境の変化や、ストレスも生理を重くする原因だ。労働基準法では生理の症状が重い場合の休暇取得が認められているが、厚労省の発表によれば’14年度の取得率はわずか0.9%!
こうした現状について、女性と月経に関する著書も多数手がけている歴史社会学者の田中ひかるさんは「やはり生理休暇という名前が『使いづらい』原因でしょう。また、『痛みは我慢すべき』という“呪い”に縛られている女性も少なくないはず」とため息をつく。
その“呪い”は形を変えて、日本のピル普及率の低さにも影響。
「ピル(低用量ピル)はもともと経口避妊薬ですが、排卵を止め卵巣を休ませる働きがあります。生理痛や生理不順の改善のほか、卵巣がんの予防などのメリットがあり、フランスやドイツでは約40%の普及率ですが、日本はわずか3%。『ピル=ふしだらな女』という偏見がまだ根強いことが影響しているようです」
過剰な冷えとストレスにさらされながら、休むことはおろか、適切な治療を受けることすらままならないのが現実だ。
■ピークを越える30~40代
この世代は女性ホルモンの分泌ピークこそ越えるものの、家庭でも仕事でも「最前線」という時期。
「生理痛がひどくても育児は待ったなしですし、働く女性なら仕事の責任も重くなるころ。生理という“重荷”が公私にわたり女性の生活を圧迫しますが、40歳ごろから、ゆっくりと体は閉経に向かっていきます。そして、40代後半からはいよいよ更年期へ。卵巣機能が衰えエストロゲンが一気に減少することで、卵巣に指示を出す脳の視床下部も『パニック』に。視床下部は自律神経とも深く関係しているため、更年期の症状は心身ともに多岐にわたって表れます」
本人の意思とは無関係に襲ってくるのが生理の症状。「女なら我慢できるだろ」というのは大間違いなのだ。