「これまで血管にかかわる病気というと、動脈硬化などの太い血管の閉塞が危険視されてきました。しかし、それらにつながっている毛細血管の劣化が、がんと関係しているということが最近の研究でわかってきているんです」
そう語るのは、『ゴースト血管をつくらない33のメソッド』(毎日新聞出版)の著者、大阪大学の高倉伸幸教授だ。
「毛細血管は、いわば動脈・静脈などの主要な“幹線道路”につながり、市区町村や自宅前(周辺の細胞)まで続く道。全身に約37兆個ある細胞に酸素や栄養を運び、さらには二酸化炭素や老廃物を排出、免疫力も活性化させる機能を持ちます。毛細血管が機能しなくなると、必要な物質も届かず、人も住まなくなる。まるで“ゴーストタウン”となった周辺組織には、正しく栄養が行き届きません」
もともと血液・腫瘍内科の臨床医として治療にあたっていた血管研究の第一人者である高倉教授は、がん患者の毛細血管は血流が悪く、老化で機能が衰えた毛細血管に似ていることに気づいたという。
「がん細胞は健康な人にも生まれ、自分で細胞を増大させてバリアをつくります。免疫細胞がそれを見つけると退治してくれていますが、血管がゴースト化すると、免疫細胞がこのバリアに入っていけなくなり、がん細胞が増殖してしまうのです」
それだけでなく、血管ゴースト化したままでは、抗がん剤もがん細胞に届かなくなってしまうという――。
「毛細血管は、加齢によって衰えていきます。40代を過ぎると、老化とともに壁細胞が変形したり、なくなったりしてしまい、内皮細胞の機能も低下する。これらをさらに加速させるのが、高血糖と、喫煙や飲酒、ストレスによる酸化。血糖値が上がり、体が酸化していくと、壁細胞がダイレクトにダメージを受け、ゴースト血管になってしまうのです」
高倉教授は著書の中で、ゴースト血管をつくらないための方法として血流アップや、自律神経のバランスなどを挙げているが、その中で今回は高倉教授が実践している、「血管を高める」5つの習慣を教えてくれた。
■壁細胞を強める食材を取る
「内皮細胞どうしと壁細胞の結びつきを強めるものに、『タイツ―(Tie2)』という分子があります。このタイツーを活性化する食材を、日常に取り入れることが重要です。2週間摂取を続けたことで、消えかけていたゴースト血管が復活したことも実証されています」
代表的な食材として、高倉教授は次の2つを挙げる。
【1】スパイスに「ヒハツ」を使う
「ヒハツはロングペッパーとも呼ばれ、沖縄料理のスパイスとして使われてきた食材です。近ごろではその機能に注目が集まり、スーパーのスパイス売場などでも見かけるようになりました。ふだんの料理に使っているコショウを、ヒハツで代用することで、タイツーを活性化させることができます。私は、そばやうどんに10ミリグラムほどかけて食べていますよ」
【2】「ルイボス茶」を毎日飲む
「健康茶として知られるルイボス茶にも、血管構造の安定化を助ける作用があります。クセがなく、飽きのこない味なので、日本茶や紅茶のように、毎日の習慣にしたい飲み物です」
体内に余分な脂肪を増やさないため、食事の際には「腹八分目まで」を心がけるのもゴースト血管予防になるという。
■運動で内皮細胞の結束を強める
「日常に運動する習慣がない人は、血管がゴースト化するリスクが高いといえます。適度に運動することで内皮細胞どうしの連結が強くなり、消えてしまった壁細胞も復活。強い血管をつくることができます」
【3】かかと上げ運動
1)両足のかかとをゆっくり上げ、5秒間キープする。
2)ゆっくりとかかとを下ろして、5秒数える。
※1日30回。
【4】スクワット
1)肩幅に足を広げ、足先をやや外側に。
2)息を吸いながらゆっくり腰を落とし、3秒間キープ。息を吐きながら元の体勢に戻る。
※1日10回。
【5】腕血管マッサージ
1)上腕に手をあて、上下左右にねじるように動かす。
2)下腕も同様に。
3)ひじの外側と内側をよくもみほぐす。
※1日1回。
「体の中でいちばん毛細血管が多いふくらはぎを刺激するかかと上げ運動から始めましょう。デスクに座っても、立ちながらでもできます。1日30回行ってください。スクワットは足の血流を活性化させるためのものです」
同じく毛細血管が集中している腕のマッサージも忘れずに。
また、ゆっくりとした入浴、ぐっすりと眠ることも、ゴースト血管の予防には効果的だそう。どれかひとつでもよいので、自分にできそうなことを見つけて継続させていこう。