「自分の子どもが不登校で……、と電話相談を受けて家庭訪問をすると、お子さんだけでなく、40代以降のお母さんもひきこもり、というケースをよく目にします。ご本人は自覚していませんし、専業主婦という立場上、問題が表面化することもありません。いわば、“かくれひきこもり”なんです」
そう話すのは不登校やひきこもりの自立支援を行う団体、関東自立就労支援センターの平岩健さん。内閣府は今年3月、中高年(40〜64歳)のひきこもりを調査。全国に男女合わせて約61万人おり、女性は約14万人と推計した。
「内閣府の試算のなかには、さっきお話しした“かくれひきこもり”の主婦はカウントされていませんから、もっと多くなるのでは」
実際に内閣府の調査では、専業主婦は無職の人と比べ、ひきこもりとみなされにくい。また、一部の自治体の調査では、ひきこもりの定義で、“専業主婦を除く”としている場合も。そこで今回、中高年女性(40〜64歳)のひきこもりを取材。すると、さまざまな理由でひきこもりになることがわかってきた。
■介護のストレスで人に会うのがイヤに
内閣府の調査ではひきこもりの原因に「介護・看護」を挙げた人はいないが、実際は介護もひきこもりのきっかけになりうる。
静岡県在住の木田英代さん(仮名・64)は、いまから15年前、49歳のときに、夫(当時50歳)が若年性アルツハイマーを発症。同時期に、75歳の義母も認知症になり、ダブル介護を余儀なくされた。
「夫は自宅で介護、義母は近くのグループホームに預けて、週に数回、身の回りの世話をしに行っていました。夫は長男で、親から遺産を相続していたので、夫の兄妹から『あんたが全部面倒見てね』と、義母の介護をすべて押し付けられて……」
木田さんは公務員だったが、ダブル介護と仕事の両立をあきらめ、50歳で介護離職する。
「丸7年間ダブル介護しましたが、体力の限界を感じて、’12年に夫をグループホームに預けたんです。同時期に、義母も看取りました。私も少し肩の荷が下りて、それから3年ほどはよかったんです」
しかし、’16年、施設の職員の不注意で、夫がベッドから転落し、大腿骨を骨折してしまった。
「施設はちゃんと謝ってくれず、原因も究明してくれない。夫を別のグループホームに替えてやりたかったけど、ほかの施設に空きはなくて。かといって、自宅で夫を1人で介護する余裕もない。どうすることもできず、なんだかもう、情けなくなってしまって……」
木田さんはこれがきっかけで人間不信になり、ひきこもるように。
「それまで、地域の『認知症家族の会』に参加して、同じ悩みを持つ家族の方の相談にものっていたんですが、行けなくなりました。とにかく人に会うのがイヤで、だんだん入院していた夫の面会にも行けなくなってしまった」
そんな自分を責めてしまい、さらに状態は悪化。
「買い物にも行けず、食事を作るのも面倒。何か口に入れないと、と思ってやっとの思いで作っても、食べ物も喉を通らない。そういう状態が1年ほど続きました」
そんななか、昨年10月、木田さんを心配した「認知症家族の会」のメンバーから誘われて、ある講演会に出かけた木田さん。
「出かけるのはおっくうだったけど、年をとってもハツラツとしている方の話を聞いたら、私もまだまだやれる、という気になって」
その後、木田さんのひきこもり傾向は緩和されていったという。
「介護をきっかけにひきこもってしまう方は少なくありません。介護を終えて燃え尽きたとか、介護離職をしたものの介護が終わっても再就職ができないとか。また、親を施設に預けた罪悪感から、ひきこもる方もいます」
そう指摘するのは、女性のうつやひきこもりに詳しいメンタルアップマネージャの大野萌子さん。
「子どもが就職や結婚で手が離れると、愛情を注いでいた対象がなくなったことでとてつもない寂しさに襲われ、これが引き金となり、うつや、ひきこもりになる方がいます。これを、ひなが巣立った後の巣の状態にたとえて、“空の巣症候群”と呼んでいますが、介護していた親が亡くなったり、施設に預けたあとになったりすることもあるんです。家にこもることが悪いわけではないですが、ひきこもり、塞ぎがちになることで、うつにつながることもあるので、注意は必要です」
大野さんは、ひきこもりを長期化させないためのコツをこうアドバイスしてくれた。
「市や区の行政の窓口には、市民相談窓口が設置されていますし、各地域には、ひきこもりの家族会などもあります。ちょっとした悩みでも、早めに相談することが長期化を防ぐカギです」
ひきこもり、塞ぎがちになるきっかけはさまざま。まずは頼れる人に、気軽に相談することを心に留めておきたい。