人生において訪れるさまざまな転機。なかでも“大きな病気”と向き合うには相当な覚悟が必要です。ここでは、「がん」を経験したことが、その後の生きる糧となった方のお話を紹介。葛藤の日々の先には“新しい私”との出会いがありました。
■岸本葉子さん(58)・作家、エッセイスト
「仕事のキャリアは“がん後”のほうが長くなりましたが、がんを克服したとはまだまだ言えない、臆病な自分と共生しています」
エッセイストとして160冊を超える著作を持つ岸本葉子さん。’01年、40歳のときに虫垂がんを発病して以来、当時学んだ食事療法や漢方を継続している。
「比較的若年で罹患したため、『なりやすい体質なのかな?』と考えるといまだに恐怖があり、再発リスクを下げてくれる可能性のある習慣は続けています」
漢方医の指導による食事メニューを丁寧に自炊し、厳選した調味料もずっと変えていない。最近は、自立して生きるには「筋肉が大切」と運動を心がけ、加圧トレーニングやダンスも取り入れている。
「結果としてがん以外の生活習慣病予防にもなっているようです」
近年は「老いじたく」「おひとりさま」「介護」といったテーマの作品も多く、がんについてつづることもなくなりつつあるともいう。
「実生活で父の介護をしていたときは、がんのあとでよかったとつくづく思いました」
岸本さんは’14年までの数年間、父親を介護したが、その際、自身のがん闘病の経験値がメンタル面で大いに生かされたという。
「父は診断を受けていないのですが、おそらく認知症で、直前の記憶が薄れ、できないことが日々増えていく状況でした。そう遅くない未来に死が見えているーー、そんな不安と孤独を抱えた父の心理を、私はがんを経験したから理解できたのです。私も、周囲が恋愛や結婚について話していても、病気という課題を抱えているため、それらを共有できない時期があって。でも、年を取って認知症となり、未来が見えないというつらさには共感できたのです。がんを経験したことで、寄り添う心を持てたことはよかったと思えます」
20年近くを慎重に過ごしたことで、がんになった後も100冊を超える著作を出すことができた。元来はスケジュールを詰め込みがちの自分をセーブし、地方講演なども日帰りせず、1泊する。執筆時間が長くなりすぎないように、ジムの予約をあえて入れることも。ずっと通っている漢方の先生によると「睡眠は何よりの薬」ということで、忙しい時でも徹夜せず、原稿の続きは翌朝に回す。これもがんと闘った経験からの「臆病さ」ゆえ。
「血液検査などでヒヤリとする局面は何度かありましたが、大事にはいたらず。無理をしすぎることがなかったから、いままで生きられたのかもしれないですね」
「女性自身」2019年12月24日号 掲載