専門医が警鐘「治療しなくてもいい“超のんびりがん”もある」

がんは怖い病気。だから、検診をして早期発見・早期治療をすれば、治って長生きできるーー。これが多くの人が考えることだろう。ところが、必ずしもこの説が正しいわけでもないようだ。

 

「がんには検診が有効ながんとそうでないがんがあります。ですから、検診して早期発見しさえすればよいということでもないのですが、日本の医療はいつまでも『早期発見・早期治療』をスローガンに掲げています。実はこの概念は世界の基準から見ても30年以上遅れているのです」

 

日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之医師はこう話す。検診が有効ながんか無効ながんかを決めるのはがんの進行度合いによるという。

 

「がんの種類というのはがんが成長するスピードによります。『急速がん』は定期的に検診をしていても、成長が早くて見つかりにくいがんです。『毎年検診していたのに見落とされた』という場合は、このタイプのがんでしょう。急速がんには、急性白血病などの血液腫瘍や一部の固形がん(胚細胞性腫瘍、炎症性乳がん、すい臓がんなど)があります」(勝俣先生・以下同)

 

検診をしても見つからないことが多いため、急速がんは検診が有効とは言えないという。

 

「一方、『超のんびりがん』は、進行するスピードが10年単位と非常にゆっくりとしたペースで成長するタイプ。『進行しないがん』は、がんがそれ以上大きくならないか、あるいは死滅していくタイプで、いわば、これは治療しなくていいがんと言えます。前立腺がん、甲状腺がん、乳がん(一部)などがあります」

 

超のんびりがんや進行しないがんの場合、治療しなくてもがんが大きくならないか、大きくなったとしても、患者はそれ以外の原因・理由で死を迎える。これも検診には適さないというのだ。

 

「このがんのタイプのうち、のんびりがんは、放置しておくと1年から数年で大きくなって死に至るタイプで、唯一、定期的な検診の恩恵を受けるタイプです。しかし、残念ながら、現状では検診でがんが発見された時点で、それがどのタイプなのかは、誰にも分りません。部位でも特定することもできません。ですが、検診でがんの疑いが出ると、精密検査を受けることになり、がんと判明すると治療に入ります。非進行性のがん(超のんびりがんや進行しないがん)であっても同じです。そして、非進行性のがんであったとしたら、本来なら不必要な検査や治療とも言えるわけで、結果的に、過剰診断、過剰治療(過剰な診断や治療)を受けていることになるのです」

 

日本には検診の種類にも問題があるという。

 

次のように、現在、日本では、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、乳がんの5つのがん検診が国によって推奨されている。一見して、日本と米国での推奨度が異なるのがわかるだろう。

 

【胃がん】日本での対象者:50歳以上男女

<検診の方法>

胃X線検査:日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外
胃内視鏡検査:日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外
ヘリコバクターピロリ抗体:日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外

 

【大腸がん】日本でも対象者:40歳以上男女¥

<検診の方法>

便潜血検査:日本の推奨グレード・A/米国(USPSTF)の推奨グレード・A(50〜75歳)
S字結腸内内視検査:日本の推奨グレード・C/米国(USPSTF)の推奨グレード・A(50〜75歳)
全大腸内視鏡検査:日本の推奨グレード・C/米国(USPSTF)の推奨グレード・A(50〜75歳)
注腸X線検査:日本の推奨グレード・C/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外

 

【肺がん】日本での対象者:40歳以上男女

<検診の方法>

非高危険群に胸部X線検査、および高危険群に胸部X線検査と喀痰細胞診:日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・D
低線量CT:日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・B(55〜80歳高危険群)

 

【子宮頸がん】日本での対象者:40歳以上女

<検診の方法>

細胞診(従来法):日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・A(21〜65歳)
細胞診(液状検査法):日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・A(21〜65歳)
HPV検査を含む方法:日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・I(30〜65歳)

 

【乳がん】

<検診の方法>

マンモグラフィー(日本での対象者:40〜74歳):日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・B(50〜74歳)
マンモグラフィー±視触診(日本での対象者:40〜64歳):日本の推奨グレード・B/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外
マンモグラフィー±視触診(日本での対象者:40歳未満):日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・C(50歳未満)
視触診(日本での対象者:全年齢):日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・D
超音波検査(日本での対象者:全年齢):日本の推奨グレード・I/米国(USPSTF)の推奨グレード・対象外

 

「米国では、Aは推奨するレベル、Bは合格ライン。CやDは禁止レベルです。Iはエビデンス不十分、それ以外は対象外。日本ではA、Bは推奨レベルですが、Cは『利益が不利益とほぼ同等』とし、住民検診などの対策型では推奨していません。Iはエビデンス不十分(人間ドックなどの任意型検診では個人の判断による)」

 

日本と米国で共に推奨レベルAなのは唯一、大腸がんの便潜血検査だけだが、海外では50〜75歳で行うのに対し、日本では40歳以上と年齢制限が異なる。子宮頸がんも21〜65歳の細胞診は推奨レベルが米国ではA、日本ではBと異なる。乳がん検診のマンモグラフィーは日本も米国も推奨レベルBだが、日本では米国より10年開始が早い。そして、米国で推奨されていないのに日本では実施されている検査のほうが多い。胃がん検査は米国ではどれも推奨されておらず、大腸がんの注腸X線検査も対象外。乳がん検診も50歳以上のマンモグラフィー以外は推奨されていない。

 

「米国ではA、B以外の検査対象のがんは、検診しなくてもいいがんとみなされているのです」

 

これほど米国で異なるデータが開示されても、日本では変わらず定期的ながん検診で、若い年齢のうちから推奨しているのだ。

 

では、検診が勧められる最たる理由の死亡率について。国立がん研究センターがん対策情報センターのデータによれば、乳がん検診の受診率が上がるにつれて、上皮内がんも含む乳がんの発見率も上がっている。

 

「“早期発見が治療につながる”のなら、早期発見で死亡率は下がるはずなのに、実際は緩やかに上がっています。発見率が上がっているのは、超のんびりがんや進行しないがんの発見が増えているからで、死亡率は減っていないのです。同様の海外の報告は、甲状腺がん、前立腺がんでもされています」

 

「女性自身」2020年3月24・31日合併号 掲載

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