■脳卒中で15cm以上の枕の使用者中「特発性」は9割
‘23年までの5年間、同センターで特発性椎骨動脈解離と診断された26歳から79歳までの53人と、特発性椎骨動脈解離以外の脳卒中などで同時期に入院した同年齢層の53人とを比較して、枕の高さを調査したという。
「枕のメーカーの研究所にヒアリングして、12cmを超える枕を『高い』、15cmを超える枕を『極端に高い』と定義しました。すると、枕が高くなるほど、特発性椎骨動脈解離を発症した人の比率が高くなることがわかったんです」
3本の棒グラフを見てほしい。
まず、左の「12cm以内」は「ふつうの高さ」を想定しているのだが、特発性椎骨動脈解離を発症した人の割合は44%だ。これが、「12~15cm」の「高い」枕になると、特発性椎骨動脈解離の人は56%と12ポイントも増加する。さらに「15cm以上」の「極端に高い」枕になると、特発性椎骨動脈解離の人は90%と、34ポイントも増加していることがわかる。
「ふつうの高さ」から比べれば「極端に高い」枕では、特発性椎骨動脈解離の人の割合は2倍以上にも増加するのだ。
「枕が高いほど有病率が高くなることが示されたうえ、この関連は、枕が硬いほど顕著であり、やわらかい枕では緩和されることもわかりました。低反発枕などのやわらかい枕なら、頭を預けたときに沈むことで、もともとの高さより低く正しい位置で睡眠できると考えられます」
田中先生によれば、
「枕が高すぎると、首が極端に曲がって、首に大きな負担がかかった状態のまま、長時間眠り続けることになってしまう。一日の3分の1を占める睡眠時間に、適正な寝姿勢は非常に重要なんです。枕が高いことによって椎骨動脈が頸部の前屈によって引っ張られ、傷んで血管が裂け、脳卒中を起こす可能性があります。最悪の場合、動脈瘤やくも膜下出血などを併発することも考えられるんです」という。
では、私たちはどんな高さの枕を選んだらいいのだろうか。寝具メーカーの西川広報担当の森優奈さんに聞いた。
「今回の調査結果では12cm、15cmなどと高さが設定されていますが、枕は素材によって頭をのせると沈みますし、寝る姿勢の個人差でも条件が変わります。当社ではセンチでは表さず、あくまでお客さま個人個人の最適な寝姿勢を前提にしています」
その「個々の最適な寝姿勢」の目安は、「立った姿勢を横に倒した姿勢が理想的」だという。
「背中を壁に当て直立した姿勢では、横から見ると、首の後ろと腰の部分に隙間が空くと思います。その首の後ろの隙間部分を埋めるのが枕の役目で、その隙間を埋められるだけの高さが、あおむけ寝に必要な枕の高さです」(森さん)
枕が高すぎる場合は、「血行不良、肩こり、首のシワ、いびきの原因にもなる」そうだ。
今回の田中先生の研究発表は、そこに「特発性椎骨動脈解離の発症リスク」が加わることになる。
「寝るときは枕に頭だけをのせるのではなく、肩口が当たるくらいまで引き寄せて寝ることで、負担がかかりにくくなります」(森さん)
さらに、横向き寝の際の高さも考慮すべきと説明してくれた。
「横向き寝の場合、横から見て、頭から首の骨、背骨までが真っすぐになる高さの枕を選びましょう。あおむけに比べて肩幅の分がありますので、より枕の高さが必要になります。横向き寝を想定して、真ん中に比べて左右両側が高めに設計されている枕もあるんですよ」
■真っすぐ目の前に天井が見える高さが◎
また西川では、個人のニーズに沿う枕として「nishikawaのオーダーまくら」も展開。
「日本睡眠科学研究所が認定するスリープマスターがカウンセリングして、枕の14カ所の調整ポイントをセンチ単位で調整する、オーダーメイドの枕です。ドジャースの大谷翔平選手(29)も実際、スリープマスターのカウンセリングを受けてオーダーメイドの枕を作っています」(森さん)
田中先生も、枕選びの際のポイントを次のように話す。
「枕が高いと首のところで極端に曲がってしまいますので、とにかく『真っすぐ』を意識して、曲がらないように気をつけること。目安は、あおむけに寝たときに真上の天井が正面に見えれば適正と考えられます。足元が見えたりしたら高すぎるし、後ろの壁が見えたら低すぎると思ってください。ご家族同士で首が曲がっていないかどうか、チェックし合うのもいいと思います」
まずは、いまの枕での寝姿勢で首が真っすぐかを確かめてみよう。