「夫婦ゲンカばかりしていると嘆いていた60代の女性に、毎朝30分だけ、早く起きることをお勧めしました。先日、その夫婦にお会いしたら『半信半疑で実践したけど、不思議とケンカをしなくなりました』。ご主人も『こんなに妻が変わるなんて、驚いた』と話すんです。幸せは実践した人だけに訪れる。いいお手本です」
こう話すのは、曹洞宗徳雄山建功寺住職の枡野俊明さん。「禅の庭」のデザイナーとして、カナダ大使館など多くの庭園を手がけ、’06年には『ニューズウィーク日本版』の「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれている。そんな枡野さんの新著が『幸運は、必ず朝に訪れる。』(秀和システム)。
では朝をどう過ごせば幸せがやってくるのか?いつもより30分早く起きたら、枡野さんが教える、次の幸運をもたらすための7つの作法を。作法はすべて10分を目安に行う。30分あれば、7つのうち、3つを行うことができる。3つを選ぶ基準は自分が苦手なこと。掃除が苦手なら掃除、体を動かすことが苦手なら散歩を選ぶようにする。
【作法1】玄関、トイレ、風呂場、その日決めた場所を掃除する
「掃除という行為自体が心身をすがすがしくするもの。禅の修行では『一掃除二信心』といわれるほどで、その場をきれいにすることは、自分の心についた塵や埃を払うことだからです。月曜はトイレ、火曜は玄関……と順にやっていけば1週間で家全体がきれいになります」
【作法2】新聞のコラムなどを書き写してみる
「新聞の1面下には各紙とも編集コラムが載っています。たとえば朝日新聞なら『天声人語』。これを毎朝、その日の分を心を込めてノートに書き写していく。写経と同じく心を静めるとともに、時世の知識も身につく。一石二鳥です」
【作法3】心を込めてお茶をいれる
「禅僧の朝はお茶をいれ、仏様にお供えすることから始まります。一口にお茶をいれるといっても、お湯を沸かし、急須に茶葉を入れ……ひとつひとつ丁寧にすることで心が落ち着いていきます。茶碗1杯分だけのお湯を急須に注ぎ、1分間、じっと待ったのち、茶碗に注ぐ。このとき、急須を揺すったりしてはいけません。とにかくじっくり最後の1滴まで茶碗にそそぎ、味わって飲む」
【作法4】椅子に座って坐禅をする
椅子は、できれば背もたれのないものを用意。椅子に向かって一礼してから座る。背筋を伸ばして、両足はこぶしひとつ入る間隔に開き、膝の角度は90度。太ももの上で両手で「法界定印」を作り、目は半眼に開けて、下斜め45度を見る。
「舌は軽く上あごにつけ、ふーと口から息を吐きだします。つづけて、上体をゆっくりと左右に揺らしながら、だんだん揺れ幅を狭くして、体が左右対称に安定する位置を探します。上体の位置が決まったら、ここからは腹式呼吸。鼻からゆっくりと息を最後まで吐きだして、吸います。これを10分間続けてください」
【作法5】観葉植物などの世話をする
「植物は自然の象徴。ぜひ一鉢、観葉植物を購入し、部屋で育ててみてください。仏教では自然とともに生きることを『共生(ともいき)』といい、これは、その実践です。枯れ葉を摘んだり、霧吹きで水をやったり、季節ごとに姿を変える植物と向き合うことから、命の移ろいを感じさせてもらえるはず」
【作法6】鏡でじっくり自分の顔を見る
「寝起きの素顔の自分を鏡に映し、『今日はこれからこういう予定です。本当に今日やるべきことでしょうか』と問いかけてみて。面倒なことを避けている自分に気づいたり、周囲の状況に負けそうな自分に『頑張れ』と気合いを入れることもできます。外見ではなく、内面を見つめるために鏡を使ってみてください」
【作法7】散歩をする
「体を動かすことも心身を整えるのに欠かせません。ラジオ体操でもいいのですが、自然と触れ合う『共生』も同時にできる散歩がおすすめ。10分間あれば、季節の移ろいを肌で感じながら、ゆっくり歩いても意外と遠くまで行ってこられます。『こんなところに花が』などと、自分自身と語らいながらの散歩は、心身を癒します」
最後に枡野さんはこう語る。
「幸運というのは春風のようなもの。誰にでも平等に吹いてきます。ただ、それをつかまえられるかどうかはその人次第。つかむためには準備が必要です。禅では『調身、調息、調心』を重んじます。自分自身を見つめ、心身と呼吸を整える。家事や仕事に追われ日々を過ごしている主婦が、こうした時間を持つとしたら、朝か夜。しかし夜は1日の疲れで心が汚れています。睡眠によって心身がリセットされている朝こそが、自分と向かい合うのに最もふさわしい時間です」