■網走番外地という住所は実在するのだろうか?
『網走番外地』といえば網走刑務所を舞台にした高倉健さん主演の人気映画だが、この地名は実在するのだろうか?
そんな素朴な疑問に答えてくれたのが、近著に『番地の謎』(光文社知恵の森文庫)らがある地図や地名の研究家・今尾恵介さんだ。
「この映画のおかげで“番外地”という用語は万人に知られるようになりましたね。バンガイチという音も濁点がちで、なんとなく迫力がある(笑)。それはともかく網走刑務所の登記上の住所は次の通りです。
網走市字三眺官有無番地
番外地ではなく“無番地”ですね。番外地はあまり用いられない用語で、無番地と実質的には同じです(無地番地とも)。つまり地番が付けられていない土地ということです」(今尾さん/以下同)
「無番地」という響きもそれなりに迫力がありますが…。今尾さんによれば、日本にはほかにも番地のない土地がいくつもあるという。
■銀座にも「番地外」があった?!
「例えば銀座にある商業施設『銀座インズ』がそうです。銀座駅すぐの施設ですが、あそこはもともと江戸城の外堀を埋め立てた土地で、河川や用水には番地がないのが通例。だからあの土地はもともと無番地だった。ならば埋め立てた際に住居表示を実施すればいいじゃないかと思われますが、ややこしいことに外堀は千代田区(有楽町)と中央区(銀座)の境界だった経緯があり、そこを埋め立てた土地に対して両区とも「自らの土地」として譲らない。そのため正式な住居表示が実施できないまま現在まで来ているのです。銀座インズは『銀座西二丁目2番地先』という住所ですが、暫定的なもので、銀座西とは今は存在しない町名なんですね」
東京・銀座にも番地外があったとは驚きだが、知るほどに奥が深いのがこうした“番地の謎”だという。
■意外と知らない身近な「番地外」
「他にも結構ありますよ。最も身近なところでは、前述した道路や河川。でもそれらがすべて無番地というわけではなく、公道などは地番のある道路と無番地の道路が混在しているのが現状です。表示登記をすれば必ず地番を付けることになっているので、地番がないということは、すなわち自治体の土地(旧国有地)ということですね」
旅行やお散歩の際にはその土地の住居表示をチェックしてみるのも面白いかも!
【お話を伺った人】
今尾恵介:1959年、横浜市生まれ。音楽出版社勤務を経て、フリーハンド地図制作者およびフリーライターとして独立。イラストマップ作成や地図・鉄道関連の著作に携わる。現在、(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会評議員。著書多数。
今尾さんの最新刊:『番地の謎』
住所のしんがりに来る番地。そもそも番地とは何だろう。どこを起点にどんな順番で並んでいるのか? 日本の住所表記は大きく3類型に分けられるが、京都・北海道など独自の表示方法を持つ自治体があるのはなぜなのか? 個性的な住所を細かく詮索しつつ「住所の仕組み」の奥深さを味わう一冊。
価格:820円+税
出版社:光文社(知恵の森文庫)