厚生労働省の人口動態統計によれば、「家庭における主な不慮の事故」の死亡者数は、最新の2016年のデータで、年間1万4,175人だった。そして同年の交通事故死者数は5,278人であるため、じつに3倍近い人が、最も安全と思われる“家庭内”で命を落としてしまっていることになる。
「種類別で最も多いのが溺死で5,491人。次に、誤嚥などによる窒息が3,817人。部屋での転倒や階段からの転落などが2,748人と続いていきます。死亡者数の約85%が65歳以上の高齢者です。住みなれたマイホームの中に、多くの危険が潜んでいるということを意識して、対策を立てておくのは、とても重要なのです」
こう語るのは、家庭内で起きる事故の事例に詳しい一級建築士の井上恵子さん。そこで、これまでに起きた事故の事例と、施すべき対策についてみていこうーー。
■ヒートショックはストーブで防げる
愛知県春日井市「田島クリニック」の院長で医学博士の田島正孝さんは、来院診療のほか、おもに家庭内(病院以外)で死亡した人の検視を、警察署の依頼で10年以上にわたって行ってきた。
「やはり、お風呂での死亡事故は非常に多くなっています。お年寄りが畳の上で心臓発作を起こせば、家族はすぐに発見できる。しかし、1人でくつろぐお風呂では、発作や意識障害が起きても、すぐに発見できないかもしれません」(田島さん)
1日のなかでも最も安息な時間を過ごせるはずの入浴タイムに、なぜ死亡事故が起きてしまうのだろうか。田島さんがメカニズムを解説する。
「入浴中の死亡には、心筋梗塞などの心臓発作の場合と、意識障害などを起こして湯水を飲んで死んでしまう溺死の場合とがあります。特に冬場に事故が多いのですが、その原因は寒い脱衣所から急に温かい湯船に入ることで起こる、いわゆるヒートショックです。日本家屋は風呂場が北側にあることが多く、脱衣所の温度が下がりやすい構造になっているんです」(田島さん)
このヒートショックは、予防できると田島さんは言う。
「まず、脱衣所を電気ストーブや電熱ヒーターなどで暖めておき、温度差を少なくすることです。また、ご高齢の方は一番風呂より二番風呂に入ることを勧めます。急に入るのではなく、徐々に体を温めてから入ることを心がけてください。入浴前の水分補給も大事ですね」(田島さん)
また、入浴前のお酒は発作を起こしやすくするので、控えておいたほうが無難だ。
■子どもの誤飲対策に高所に収納場所を
「よくお正月などに、餅を喉に詰まらせて窒息する事故が報道されています。高齢者や子どもがいる家庭は、お餅やこんにゃく、一口ゼリーなどかみ砕きにくいものは、小さく刻んでから食卓に出すよう心がけましょう。また、お餅を食べるときなどは、お年寄りや子どもを1人にしないようにすることも大切です」
こう解説するのは、前出の井上さんだが、子どもの窒息の原因は「食べ物だけではない」と言う。
「乳幼児がボタン電池をくわえているのを母親が発見し、慌てて病院に連れていって検査したという話もあります。子どもは好奇心旺盛でなんでも口に入れたがりますから、誤飲する危険なものは、手の届かない高いところに置くべきです」(井上さん)
子どものいる家庭は、電池や筆記用具など誤飲の恐れのあるものを入れる小箱を作り、高所に置くといい。面倒くさがらず、毎回収納しよう。