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“隣にいてあたり前”の存在だった夫が他界。いつかは来ると覚悟していても、その後の空虚感は想像以上だといわれている。中には“死別うつ”に陥る人も……。

 

「核家族化と少子高齢化が進み、以前より人間関係が狭く濃くなっています。それだけに配偶者や家族、親しい人との死別は悲しみが深く、心身にストレスがかかります。その心の傷が消えることはありません。しかし、大切なことは、悲しみと折り合いをつけて、愛する人のいない世界に適応しながら人生を送ることなのです」

 

こう話すのは、埼玉医科大学国際医療センターで、遺族の悲しみに耳を傾ける「遺族外来」を開設している大西秀樹教授(57・精神腫瘍科)。大切な人を失って、悲嘆が深刻化し、無力感で先に進めない人は少なくない。死別後には、うつ病の発症率と自殺率が高まり、心臓病の発症率が上昇するという。

 

「夫婦仲がいい人ほど、死別のつらさが大きいと考えられていますが、夫婦仲がいい方はもちろん、特段仲がよくなくても、配偶者の死別による悲しみに打ちひしがれて、立ち上がれない人は多いのです。ところが今の社会は、そんな遺族に対してのケアが十分ではありません」(大西教授)

 

そこで、大西教授に死別の悲しみから抜け出すための「5つの解決策」を教えてもらった。

 

【1】“頭の中”を文章で表現

 

「死別した当初は、つらいことや悲しいことで頭の中がいっぱいです。その際、書くという行為が頭の中を整理する一助になることがあります。手紙でも日記でも、文章で表現することで、自分を客観視でき、頭から死別のつらさや悲しさをいったん切り離すことができるのです」(大西教授)

 

「遺族外来」を訪れた患者さんの中には、短歌を詠むことで死別の悲しみと向き合い、人生を歩み始めた女性もいるという。

 

【2】慰めの言葉はスルーして

 

「病気に気づかなかったのよね?」「あなたよりも大変な人はたくさんいるのよ」。そんな励ましの言葉が遺族を追い詰めてしまうことがある。

 

「悲しみに沈む遺族を見かねて周囲の人が矢継ぎ早に慰めの言葉をかけてきます。中には『最期はいかがでした?』と立ち入ったことまで聞いてくる人も。このような“善意の声かけ”は、遺族にとっては時として逆効果となります。また、『がんばって!』『あなたの気持ちはわかります』などふだんなら気にならない言葉でも、人生最大のストレスを受けた人にとっては“心ない言葉”になってしまうのです」(大西教授)

 

家族を失った人には、無理に声をかけるよりも、寄り添って話を聞く姿勢が大切だと大西教授は言う。

 

「対策としては、声をかけられたときに『これは役に立たない支援だ』と完全スルーすることです。うまく受け流せた人は、思いの外、早く新しい人生を歩みだしています」(大西教授)

 

【3】時には“遺族モード”に

 

「死別の悲しみやつらい感情にふたをして仕事や子育てにまい進するタイプの方もいます。しかし、悲しさには年数は関係ありません。しばらくたってから、ポキンと心が折れたように悲しみが押し寄せ、うつ病になるケースもあります。時には感情をさらけ出し、しっかり“遺族モード”になる時間を作ってください。亡くなった方と過ごした日々を思い出して」(大西教授)

 

“仕事モード”と“遺族モード”のメリハリが必要だ。

 

【4】同じ境遇の人との会話を

 

つらい体験も他人に話すだけで、現実を受け入れられるようになることがある。

 

「心の内を吐露することで、問題が整理されていけば“愛する人のいない生活”に適応できるようになります。相談相手としては、家族や友人たちが想定されるかもしれませんが、身近な人だからこそ話せない内容もあるでしょう。そんなときは守秘義務のある医療関係者や専門家に相談することも検討してください。また死別体験者たちで作る自助グループに参加し、遺族同士で悩みを語り合うという方法もあります」(大西教授)

 

【5】夫との「絆」を再確認

 

6年前に血液系のがんで夫(享年57)を亡くした船木順子さん(58)は、死別の絶望感から、2年間、遺族外来に通った。船木さんは、1つの発想の転換で、悲しみの底から抜け出すことができたと話す。

 

「夫のいない人生は、予想以上につらいものでした。同世代で夫がいないのは私だけ……。そんな思いから、人目を避けるようになって、愛犬の散歩は人けのない早朝。夜も眠れず、睡眠薬の力を借りていました。でも、あるとき娘が『お父さんは、いろんなものをたくさん遺してくれたよね』とつぶやいたんです。夫がなくなって、私の人生には“もう何もない”と思っていたんですが、周りをよく見ると、思い出、今の生活、将来の計画など、夫はいろんなものを遺してくれていた。“夫との関係”はまだつながっている、いつか天国で待っている夫に会える、と思えるようになったんです」(船木さん)

 

“思いがけない死別”で、遺された人が、どんな言葉に傷つき、どうすれば前に歩みだせるのかーー。そんな来るべき日のことを、機会を作って、家族全員で話し合っておいてはどうだろうか。

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