100歳以上の長寿者が全国に6万7,000人以上いる日本。平均年齢は男性が80歳、女性に至っては87歳という“超”長生き時代に突入している(厚生労働省「平成27年簡易生命表」)。さらに、平均寿命を超えて長生きすることも珍しくない。女性の死亡数のピークは92歳。約3人に1人が92歳、約5人に1人は95歳まで長生きするというデータもある。
とはいえ、長い老後生活を送るのにお金が心配、という人も多いのでは?
そんななか、長生きすればするほどたくさんのお金を受け取れる新しいタイプの個人年金保険「トンチン年金」が注目を集めている。“トンチン”とは、17世紀にこの保険制度の仕組みを考え出したイタリア人、ロレンツォ・トンティの名前に由来するとか。
日本では、昨年4月に日本生命保険が業界初のトンチン性を高めた年金保険『グランエイジ』を発売。今年に入って第一生命『ながいき物語』、太陽生命『100歳時代年金』、かんぽ生命『長寿のしあわせ』など次々と登場している。
特徴は、加入者が支払った掛け金を年金の原資として、死亡時に遺族への保険金などは支払わずに、その分を生きているほかの加入者の年金原資に回すというもの。生命保険のように死亡保障がなく、保険料は掛け捨てか解約返戻金が低くなっている分、長生きするほど多額の年金がもらえる仕組みになっている。
そこで、どれだけ長生きすればお得になるのか最大手保険会社のトンチン年金『グランエイジ』で試算してみた(ただし、条件の差額、端数や税金などを除き、単純計算した場合)。
加入できるのは50歳から87歳まで。健康状態などが無告知なのも、「お金にかける保険」だからだ。契約から年金受給開始までの保険料の払込期間は最短10年。死ぬまで年金を受け取れる「5年保証期間付き終身年金」を選択した。
【例:Aさんの場合】
■55歳で加入。払込期間:10年(最短)、65歳まで。年払い額:約85万円(月約7万円)、累計保険料:約850万円。
■65歳より年金受給開始。年金年額:約30万円(月2万5,000円)、5年確定終身年金。
55歳で契約し、毎月約7万円を定年まで払い続ければ、最短65歳から毎月約2万5,000円の年金を一生涯受け取ることができる。ただし払い込み保険料総額約850万円の“元”がとれるのは、29年目の94歳ということに。だが、もし100歳まで生きれば200万円もお得!
【例:Bさんの場合】
■60歳で加入。払込期間:10年(最短)、70歳まで。年払い額:約75万円(月約6万2,000円)、累計保険料:約750万円。
■65歳より年金受給開始。年金年額:約30万円(月2万5,000円)、5年確定終身年金。
Aさんと同じ条件で60歳のときに加入したBさん。最短70歳から受け取れて、月々の保険料は50代より多少抑えられる。とはいえ、その元金が取り戻せるのは25年後の95歳。それが100歳になれば、150万円お得になる計算。
ただし、Aさんが平均寿命で死んでしまった場合は190万円の損失に。月々の保険料も高額とあって、家計に余裕がなければ難しそう……。
「夫が先に亡くなりそうだと思うなら、加入を考えてもいいかも」
そう語るのは、年金と資産運用に詳しいファイナンシャルプランナーの山中伸枝さん。確定拠出年金相談のプロを育成する「山中塾」の運営や、数多くの講演会を行う、まさに年金の専門家だ。
「かなりギャンブル性の高い保険です。長生きした人がいちばん得する仕組みですから、寿命に懸けた椅子取りゲームと同じです。簡単にいえば保険料を払うばかりの人が6割で、“椅子に残った”4割の人にお金が回されます」
それでも、公的年金の上乗せとして加入を検討する人が増えているのは、“長生きリスク”の不安が後押ししているからだ。
「トンチン年金が注目されるのは、将来、受給額が減ったり、受給年齢が引き上げられるのではという公的年金制度への不安や、低金利などで老後の資産形成が思うようにできていない人が多いからでしょう。とくに、いまの高齢の女性は夫に先立たれると、夫の厚生老齢年金の一部のみが残るだけなので、生きているうちに蓄えが尽きたらどうしようという不安が拭えません。夫を亡くした女性に加入者が多いのも特徴です」