がんになる前に乳房と卵巣を切除した女性が語る「リスク低減手術」とは?

「遺伝子検査の結果が陽性の場合、乳がんの予防には女性ホルモンの働きを抑える『タモキシフェン』という薬を服用する化学予防法があります。さらに、卵巣がん発症のリスクを減らしたいという方には、予防的に卵巣と卵管を切除するという方法があります。この場合、卵巣がんに加え、ホルモンの分泌を抑えることで乳がんの発症を抑える効果も期待できます」

 

そう話すのは、栃木県立がんセンター技幹で臨床遺伝専門医の菅野康吉博士。日本では、乳がんに対する卵巣切除術は「外科的内分泌療法」として保険承認され、タモキシフェンが使用される前には一般に行われていた。遺伝子変異が陽性でがん未発症者の場合の『リスク低減手術』は、医療機関の倫理委員会に申請し卵巣、卵管あるいは両側乳房を摘出する手順で行われる。ただ未発症者の場合は自費負担となるため、まだ日本では普及していないのが現状だという。

 

米国では認知されている、このリスク低減手術を受けた女性がいる。ゴールドマン・サックス証券でチーフストラテジストとして勤務するキャシー松井さん(47)だ。キャシーさんが乳がんと診断されたのは’01年。米国の大学病院で受診した際のこと。結果は陽性。がんに罹患していないほうの乳房も、予防のために切除することを決めた。決心にそう時間はかからなかった。

 

「カウンセラーの先生とじっくり話をして、経験者のビデオなども見せていただく機会があり、切除によるプラス、マイナスを検討したうえで決断しました。私の場合まだ若かったし、2人の子供もいたので、再発のリスクを軽減させることを何よりも優先したのです」(キャシーさん)

 

さらに1年後には卵巣も切除。骨や心臓への副作用も知ったうえでの、さらなる決断だった。現在はホルモンバランスを調整するため、薬の服用は欠かせないという。

 

「手術は非常に簡単で、お腹に穴を開けて卵巣を摘出する腹腔鏡手術で、日帰りでした。手術直後から歩いていたくらいです。私の選択は、日本人の方から見ると極端な印象があるといわれたこともあります。ただ、私にとって『ピースオブマインド』が得られたことは大きく、プラスが多かった。私には最良の選択であったと思っています」(キャシーさん)

 

遺伝検査を受けて以来、近い親戚にも検査を定期的に受けるよう勧めたというキャシーさん。だが、「選択はあくまで自己責任。誰にでもこの検査を勧められるものではない」と強調する。

 

「自分のことであっても、知りたい人とそうでない人がいます。それだけ、結果が陽性であった場合は重い問題であるということなのです」(キャシーさん)

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