現実の世界はつらいニュースばかり、せっかくだから本の世界に逃避したい! そんな方に、うってつけのSF&ファンタジーは? SF・ファンタジー評論家の小谷真理さんに教えてもらった。
「ふだん、SFを読まない人にもオススメしたいのが『煙突の上にハイヒール』(小川一水著 600円
光文社)。近未来の日常を描いた短編集で、登場人物はOLや普通の青年たち。親近感をもって物語の世界に入れます。彼らの日常が、ランドセル形ヘリコプターやネコ目線の映像が撮れるカメラなど、近未来のテクノロジーを利用した製品によって、意外な方向に変わっていく様子が、面白く描かれています。
次は、サスペンス風な展開に手に汗握る『ブラック・アゲート』(上田早夕里著 1,785円
光文社)。人体に寄生し、その体を食い破って孵化する「アゲート蜂」なる新種の蜂が大量発生して、人類が危機にさらされる物語です。一見、現実離れした設定ですが、登場人物や危機を乗り越える過程にリアリティがあり、感情移入しやすいお話です。
3冊目に紹介するのは、日本発のファンタジーでは間違いなくダントツに面白い! と断言できる『月の影
影の海』(上・下 小野不由美著 各546円
新潮社)。これは『十二国記』というファンタジーシリーズの1巻目にあたる作品です。周囲の顔色を窺いながら日々を過ごす女子高生・陽子が、ひょんなことから異世界に放り出され、さまざまな試練を克服していく、いわば王道の成長物語です。作品の世界は、多くの人が想像する西洋的なものとは違い、すべて中華風で、神や仙人が支配する世界。そして誰もが驚くのが、この世界では、木になった卵から人間が生まれるという設定。こういった設定が奇抜で終わらないのは、細部まで世界観が丁寧に作りこまれているから。
最後にオススメするのは、最近、亡くなったレイ・ブラッドベリの名作『火星年代記』(小笠原豊樹訳 987円
早川書房)です。これは、人類の火星への移住の歴史を描いた連作短編集。火星に大挙して移住した人類が、もとの住民である火星人にとって代わる存在となっていきます。この作品の醍醐味は、壮大な世界観でしょう。作中で描かれる火星の砂漠や山々の景色は、地球の原風景を想像させます。また、この話は一見、未来を描いているようで、じつはアメリカの移民の歴史をなぞらえた物語でもあるんです。未知の大陸、広大な自然、先住民の駆逐……火星の住人となった地球人が、今のアメリカ人というわけです。これを頭に入れて読めば、作品の深みがいっそう増すでしょう」