「やっとわが子がこの世に生まれてきてくれたという感じです(笑)。長いあいだ仕立て屋さんの映画をつくりたいと思っていたので夢がかないました」
そう話す、三島有紀子監督の最新作『繕い裁つ人』は、祖母が始めた洋裁店を受け継いだ職人かたぎで頑固な2代目店主・市江(中谷美紀)が主人公の物語だ。三島監督作品といえば、モノづくりにこだわる主人公が多いが、その理由を次のように説明する。
「モノづくりをしている人たちの生きざまを見たいという気持ちがあったんだと思います。今回は仕立て屋さんがテーマですが、服って体にいちばん密着していて、その人を表すもの。それを職人はどう作っていくのか、着る人を引き立たせるためにどう考えていくのか、それをさぐっていくのが面白くて」
洋裁店や仕立て屋さんの取材を始めてしばらくたったころ、本作の原作である同タイトルの漫画に出合った。
「読んで、市江さんの映画をつくりたい!市江さんの人生を旅したいと思いました。誇り高き職人で口下手で頑固で洋裁以外は何もできない。でも、洋裁に関しては天才で、ストイックに最高の技術をお客様に提供する。そんな市江さんのキャラクターに、強く引かれました」
監督の思いを受け、中谷美紀をはじめとするキャスト陣が愛おしい世界観をつくりあげていった。衣装や小物といった、細部も楽しめる作風は本作でも健在だ。
「美術部や衣装部は、三島組と聞くと、イコール大変かも、というのをお感じになっているかも(笑)。見て楽しめるものがちりばめられていますし、ひとりの女性がひとつのことにこだわって生きていくさまというのは、何かしら力がもらえるのではないかなと私は思います。すべての女性に見ていただきたい映画です」