「仕事も親の介護も両方こなさなければならないという家族にとって、『混合介護』は非常に有意義なサービスです。介護保険を使ったサービスと保険外のものを両方うまく組み合わせることで、在宅介護の負担はかなり軽減できるからです」
こう語るのは、All About介護ガイドの介護アドバイザー・横井孝治さん。混合介護サービスとは「介護保険の範囲内(保険内)で受けられる、自己負担1〜2割のサービス」と「介護保険の範囲外(保険外)、全額自己負担のサービス」の、2つを併用して行う介護サービスのこと。
厚生労働省は、「混合介護」の拡大に向け、現在“新ルール”を作成中で、今夏をメドに明確な方針をまとめて全国の自治体に通知する予定だ。
これにより、訪問介護で身体介護(排せつ、食事、清拭・入浴の介助など)のサービスを受けた後に、保険外サービスで家事援助(同居する家族の分の調理、洗濯、掃除、買い物など)が、そのまま続けて受けられるようになる。介護生活になるまで、利用者が一家の家事を担っていた家庭にとっては、非常にありがたいサービスと言える。
そして新ルールの“目玉”は、通所介護における保険外サービスだ。主な内容は次のとおり。
□緊急時における医療機関への受診や巡回健診
□理美容サービス
□予防接種
□物販
□買い物の代行サービス
□個別の同行支援(付き添い)
「これまでのデイサービスででは、事業所に滞在中は、個人的な用事で利用者が外出することはできませんでした。しかし新ルールでは、保険外サービスを利用し、スタッフが同行し“○○に行きたい”といった要望に応えられるようになる予定。こういった個別のサービスの提供で、さらに利便性をよくしようという考え方です」(厚生労働省老健局)
介護保険は、調理、洗濯といった家事などのサービスは利用者本人だけが対象だ。訪問介護でスタッフが掃除できるのは利用者本人の部屋のみ。「ついでに家族の部屋も掃除してもらいたい」と思っても、保険内ではできないことになっている。
ところが、新しい保険外サービスでは、追加料金で“家事代行”の願いに応えてくれるという。
「ほかの家事をついでにやることは、介護スタッフにそれほど大きな負荷をかけるものではありません。たとえ有料であっても、介護負担がさらに軽減できると、歓迎する家庭も多いと思います。事業者側も介護報酬とは別に収益が入るので、混合介護サービスの利用者が増えれば、スタッフの給与アップにもつながる」(横井さん)
事業者間でサービス内容の競争が始まれば、質の高いサービスを安い料金で受けられる可能性もある。混合介護サービスは、利用者とその家族、そして介護事業者、介護スタッフなど、どちらにもメリットがある制度といえる。
いっぽうでマイナス要素も指摘されている。保険外サービスは全額自己負担なので、どうしても経済的負担は増える。つまり、お金がある人は大いに利用できるが、余裕がない人はただただ我慢……。いわゆる“サービス格差”が広がるという懸念があるのだ。
また、要介護者本人が保険外サービスを過度に利用することで、自立支援の妨げになるかもしれないともーー。
「介護保険をたくさん使ってもらったほうが、事業所は儲かる」と話すのは、都内で介護事業所を経営する男性だ。
「1割負担の利用者さんが1万円分の介護サービスを受ける場合、利用者さんの負担は1,000円。残りの9割は国から入る。仮に、保険外サービスの料金が1,000円だとしたら、事業所にはそのお金しか入らない。ヘルパーさんの時間給は同じなので、その1,000円が時給より少なければ、事業所はまったく儲からないわけです」
介護保険の収入を維持しながら保険外の収入を増やす必要がある。そこで、料金設定をどうするか。ヘルパーに支払う保険外サービスの報酬をどうするか。そしてサービス内容をどのように拡充し、ほかの事業所と差別化するか。混合介護サービスを提供していく側にとって、今後の課題となりそうだ。
だが、別の介護事業所で働くケアマネジャーは、大きな期待を寄せている。
「ヘルパーさんを募集してもなかなか集まらない。定着しないのが実情です。でも、身体介護の資格を持ったヘルパーさんだけでなく、掃除やゴミ出し、ペットの散歩、買い物などを担当するスタッフが、どんどん保険外サービスをやるようになれば、そういった仕事が新たなパート先として注目されるかもしれません」
横井さんに、この混合介護サービスを上手に使うコツを聞いてみた。
「最初に、どこまでが保険内で、どこからが保険外のサービスになるのかを把握しましょう。そして実際に利用する場合は、できるだけ同じ介護事業者にやってもらうほうが効率的です。ただし、事前に周辺地域の事業所をリサーチし、パンフレットなどで、そこがどのような保険外サービスを提供しているかを確認してみてください。サービスによっては、シルバー人材センターにお願いしたほうが、安くなるかもしれませんから」
もし今後、家族のために“介護離職”をしなければならないという状況になった場合も、ぜひこの混合介護サービスの利用を、検討してみてほしい。