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「介護サービスを利用したときの自己負担額は原則1割、所得によっては2割です。しかし、昨年8月から一定の所得がある人は3割の負担に引き上げられました。“介護費用を軽減したい”という相談は増加しています。そこで、いま注目されているのが、役所での『世帯分離の手続き』というものです」

 

そう語るのはファイナンシャルプランナーの畠中雅子さん。「世帯分離」とは、いったいどんなものなのだろうか?「お金と福祉の勉強会」代表の太田哲二さんが解説する。

 

「高齢者と同居している、またはこれから同居して親を家族で介護する、という家庭は多いでしょう。世帯分離とは、親と同居している状態で、家を“親の世帯”と“子の世帯”の2つに分けることです」

 

なぜ世帯主を分ける必要があるのか。その理由は、日本の社会保障費の計算方法にある。

 

「介護保険料や高額療養費などの社会保障費は世帯ごとの所得に基づいて計算されるため、所得の高い世帯ほど負担が重い。たとえば65歳以上の親が、同居している子の世帯に入っている場合、親の年金収入と子の所得を合わせたものが世帯ごとの所得です。ところが、親だけで1世帯とすれば、社会保障費は親の年金収入のみに基づいて計算されますから、負担がぐんと軽減するわけです」

 

夫と死別した母親(74歳)と同居するA夫婦(ともに50歳)のケースを見てみよう(負担額は自治体によりことなる)。

 

母親の年金収入が年78万円。同じ世帯の場合、子の年収500万円、その妻のパートの年収120万円、親の年金合わせて698万円が世帯所得となるため、介護保険料の支払い額は年間6万3,000円と算出される。しかし分離すると、年金収入78万円で計算するため、ほぼ半額の3万3,600円にまで減る。

 

世帯分離の負担減効果がその本領を発揮するのは、同居している親が介護サービスを受けるようになってからだ。

 

「1カ月の介護保険の負担によって決まる『高額介護サービス費の自己負担限度額』はA夫妻の場合月額4万4,400円ですが、分離すれば月額1万5,000円と大きく減らすことができます」

 

A夫妻の母が、特別養護老人ホーム(以下、特養)に入所した場合、親の収入が年金だけでも、特養(ユニット型個室利用)に入ると月に15万~16万円ほどかかる。

 

「親の預貯金が1,000万円以下ならば、分離をすると特養でかかる費用のなかで食費や居住費が軽減されます。食費は1食460円から130円、居住費は1日1,970円から820円と減り、月々5万円ほどで特養に入所することが可能です」

 

では、A夫妻のようなケースに当てはまらなくても、申請するメリットはあるのだろうか。畠中さんが解説する。

 

「親が75歳未満で、子が勤めている会社の健康保険組合の福利厚生が充実している場合は“保留”にしておくべきでしょう。被扶養者の親にも差額ベッド代が出たり、人間ドックを安く受けられるなどいろんなサービスがあります。しかし、75歳になると、後期高齢者医療制度に移行するため、すべての人が子の健康保険から独立します。後期高齢者は要介護リスクも上がることから、75歳以上の同居親がいる場合は“いますぐ世帯分離すべき”でしょう」

 

世帯分離という考えは、住民基本台帳法が制定されたときからすでにあったが、介護負担の軽減のために用いられることは少なかった、と太田さんは話す。

 

「日本では、年老いた親は家族で面倒をみることが“美徳”とされてきただけに、世帯分離という言葉を聞いて“親を捨てるのか?”と思われる人もいます。しかし、これはあくまで住民基本台帳に基づく手続きであり、戸籍はそのままなので“親と縁を切る”ことではありません。扶養から外れるわけではないので、所得税の扶養家族控除はそのまま。控除と社会保障費の両面でお得なシステムなのです」

 

親と子の世帯分離の手続きは、住んでいる市区町村の役所で行う。

 

「必要なものは(1)国民健康保険に加入している場合は被保険証、(2)運転免許証やパスポートなど本人確認書類、(3)印鑑です。手数料などはかかりません。『住民異動届』の書類に記入して窓口に提出。もし書類がわからなければ窓口で『世帯分離の届出書類はどれですか?』と尋ねればもらうことができます。通常、手続きは5分ほど。注意すべきなのは『介護費用を安くしたい』という理由で申請しないことです。国の意図しない活用法なので、承認してもらえないことも。余計なことを言わず、『親とは生計を共にしていない』と窓口で伝えましょう」(太田さん)

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