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“悪”にだって理由はあるかもしれない。完全なる“勧善懲悪”の時代は過ぎた。今の時代は一度“受け入れる”ことが求められているーー。

 

今、エンタメの世界では『鬼滅の刃』が社会現象を巻き起こしている。コミックはシリーズ累計4,000万部を突破、アニメも人気の作品で、家族4世代にわたって楽しめることから「朝ドラのようだ」とも評される。

 

物語は、鬼に家族をみな殺しにされた少年が、唯一、生き残りながら、鬼にされた妹を人間に戻すため“鬼狩り”の道を進みながら成長していく、というもの。

 

「しかしそれが“正義 vs. 悪”という勧善懲悪の構図ではなく、悪=鬼にも悲しい理由があり、悪側にも気持ちを寄せているのが、この作品の特徴なのです」

 

爆発的人気の理由をこう解説するのは、日経BP総研の上席研究員を務める品田英雄さんだ。

 

「じつはこれ、50年ほど前のエンタメ界にも起きていた現象です。ベトナム戦争の時代。アメリカでは“国=正義”という図式がくずれ、『アメリカンニューシネマ』と呼ばれる、戦争に反対する若者たちの心情をとらえたジャンルが人気になりました。実在した強盗の逃避行を描いた映画『明日に向かって撃て!』など、社会からはみ出した主人公の生き方が共感を得たのです。時を同じくして、中国では若者を中心に文化大革命が起きていますし、“権力や体制に逆らうことこそ正義”という思想が、世界的に広まった時代だといえます」

 

日本でも、ダークヒーローが登場して人気を博した。

 

「テレビドラマの『子連れ狼』です。一族をみな殺しされた剣士が、唯一、生き残った息子の大五郎と、子連れ刺客として活躍する物語で、それこそ、『鬼滅の刃』に通ずるところがありますよね。悪といわれる者たちにも見るべきところがあるとし、否定せずに受け入れる。時代がひとまわりして、現代の『鬼滅の刃』が登場してきたように思えます」

 

しかし、単に歴史のリバイバルというだけではない。『鬼滅の刃』が誕生し、ヒットしたのは、閉塞感やストレスを感じやすいこの時代だからこそ、と品田さんは分析する。

 

「ここ10年、つまり、スマホの広がりと表裏一体ですよね。集団の多数派が少数派に対して、意見を合わせるよう圧力をかけてくる。仲間内で違う意見をもっていると、いじめの対象にされやすい。企業でも、コンプライアンスやルールの厳守を強く求められる。息苦しい時代です。その反動で“否定しない”ものを強く求めるのは、心理的に当然のことではないでしょうか」

 

「女性自身」2020年4月28日号 掲載

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