いまや国民病とも呼ばれる認知症。いつか直面することになるかもしれないこの病いには、いまからできる“お金の備え”が必要だーー。
“人生100年時代”を迎え、多くの人が長生きできるようになったのはありがたいが、“長生きリスク”が伴うことになる。特に気をつけたいのは認知症だ。’25年には、高齢者のじつに5人に1人にあたる約700万人が認知症を発症するともいわれ、年々増える傾向にあるという。
介護が必要になり、長生きするほど老後のお金はかかってくる。家族や本人が認知症を発症するとその費用はさらに大きくなり、同時に認知症にかかった人の資産が凍結するといった事態も生じることになる。
こうした“認知症になったときに直面するお金のリスク”について、一度きちんと考えて、いざというときに慌てることのないようにしておきたい。
■「介護にかかるお金」を知る
「親や家族が元気なうちに『どんな介護を受けたいのか』という話をしながら、もしものとき、親のお金で、医療や介護費を支払えるようにしておかないと、子どもが立て替えることになってしまい、負担が増えてしまいます」
そう話すのは、介護作家の工藤広伸さん。工藤さんは、’12年から岩手県で一人暮らしの母(77)を遠距離介護しながら、認知症の祖母と末期がんの父を看取った経験がある。お金のことで苦労したのは祖母の介護のときだった。
「祖母は認知症でがんにかかっていたので、数十万円の医療費が必要となり、私が立て替えることになったのです。そのとき、母にも認知症の症状が出始めていて、祖母のお金の管理ができない状態でした。途方に暮れていたとき、病院内の相談所で『成年後見制度』の利用を教えてもらい、さまざまな手続きを経て、やっと祖母のお金で医療費を支払えるようになりました。判断能力が低下すると、預貯金を家族が引き出せず、医療費などの支払いに困ることがあるというのは知っておいたほうがいいでしょう」(工藤さん・以下同)
人によって個人差はあるが、若いうちに認知症を発症すると、介護は長期化する恐れがある。生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる費用は月7.8万円、平均54.5カ月(4年7カ月)、一時費用が69万円で、総額494万1,000円かかる計算になる。仮に若いうちから認知症にかかったとすると、10年で1,000万円を超える額になるケースも。まずは、認知症の介護が始まるとどれだけお金がかかるのかを把握しておきたい。
はじめに、認知症の人が受けられるサービスと、入居できる施設の種類を知っておこう。在宅で受けられるサービスには、訪問介護、訪問・通所リハビリ、認知症対応型通所介護(デイサービス)などがある。