「老後をどうしたいのか方向性を決めていくと、蓄えておくべきお金がわかってきます」
そう話すのは、『こんな時代でもラクラク貯金ができる! ○×でわかるお金の正解』(KADOKAWA)の著者で、家計再生コンサルタントの横山光昭さん。
人生100年時代、想像以上に長い老後が待っている。その長い老後を乗り切るには、まずは年金生活に入った後、年金収入だけで生活が成り立つのかをシミュレーションしてみよう。受け取れる年金の額は「ねんきん定期便」で確認できる。
住宅ローンを払い終わっていれば住居費はなくなり、現役時代と違い毎日通勤しなくてもいいのであれば、夫のスーツ代やワイシャツのクリーニング代などは少なく見積もれるだろう。ただし、月々の生活費に不足分が出るようであれば、「不足分は仕事を続けて収入を得る」という選択肢を視野に入れなくてはならない。
「仕事を続けて収入を得るということは、年金や貯蓄を使い尽くさないという生活防衛策でもあり、健康をキープすることにもつながります。とりわけ夫にいつまで働いてもらうのかは、老後資金をいくら貯めるかを考えるうえでも大切なポイントになってきます」(横山さん・以下同)
いずれにせよ退職金は病気や介護が必要になったときのために備えておくのがベター。そのほかにどれだけのお金が必要となるのかの「ライフプランニング(人生設計)」を立てておくことが必要だという。
年金生活に入ってからの「ライフイベント」には具体的にどんなものが想定されるのだろう。
たとえば、子どもたちがすでに独立していれば、教育費などの大きな支出はなくなるが、まだまだ動けるうちは新車の購入費や、旅行、親が健在なら帰省などの費用も見積もっておく必要がある。それらはすべて貯蓄でまかなわなくてはならない費用だ。
具体的なライフイベントには表れてこないが、病気になったり介護が必要になったときのお金も想定しておきたい。
「若くて健康なうちは気付かないのですが、老後生活の最大のリスクは病気です。『高額療養費制度』を使えば医療費はかなり抑えられますし、介護にかかる費用も、一定金額を超えた場合には『高額介護サービス費』を利用することで、払い戻しを受けられます。ですが、医療や介護でお金が戻ってくるこうした制度については、誰も教えてくれませんので、知らないと損をしてしまいます。お住まいの自治体に問い合わせるなどして確認しておきましょう」
さらに、医療保険と介護保険のサービス両方を利用している世帯であれば、1年間(8月から翌年の7月まで)の負担額が一定額を超えた場合に、申請すると超過分が戻ってくる「高額医療合算介護サービス費」も受けられる。
また、女性の場合、気をつけたいのは、夫に先立たれた後の生活のこと。たとえば、夫と妻の分を合わせて毎月約23万円の年金を受け取っていたとしたら、夫の死後、妻がそのままの金額を受け取れるわけではなく、約14万円(妻の老齢基礎年金6万5,000円+遺族厚生年金7万5,000円)までダウンしてしまう。夫の死後、受け取れる年金額は把握しておこう。
【想定しておきたい老後のライフイベント例】
〈60歳・夫の定年退職〉
定期的な収入が大きく減ってしまうポイント。これを機に身の丈に合った支出に見直そう。
〈65歳・夫が脳卒中〉
日本人の死因の約52%を占める三大成人病。リハビリが必要になることも想定しておこう。
〈75歳・夫と死別〉
葬儀にかかる費用以外に、今後もらえる遺族年金の額も把握しておく必要がある。
〈85歳・要介護状態で施設に〉
終(つい)のすみかを確保するにもやっぱりお金が必要。入居する施設は元気なうちに探しておきたい。 男性よりも平均寿命が長い女性にとって、「長生きリスク」への備えは、より切実なのだ。