■日銀は物価上昇を止められない!
じつは欧米各国もコロナ禍の経済対策として、金融緩和を行ってきた。しかし、ここにきて各国は物価上昇の兆しが見えてきたために、緩和をやめて正常化を図る動きをとっている。
「物価を抑えるには、日銀も金融緩和をやめて、円安を食い止める必要があります。しかし、そのためには日銀は保有している国債を売却して、流通する円の量を減らさなければいけません。すると、国債の金利が上がってしまうので、日銀は踏み込めないのです」
日銀は10日、国債を無制限に買い入れて金利を抑制する“指値オペ”を行うことを発表した。むしろ、金利の上昇を抑えようとしているのだ。
「日本の政府は今、借金をたくさん抱えています。金利がほぼ0の今でさえ、約100兆円の歳出(国の一般会計)のうち10兆円が利払い費なんです。もし今、金融緩和をやめると長期金利が上昇し、国の財政は利息の支払いだけで手一杯に。日銀はそれを恐れているため、金融緩和をやめて、円安を食い止めることができないのです」
■賃金が増えない原因も「円安麻薬」に
さらに、一向に賃金が増えないこの20年間の元凶も、岸田政権に至る今日まで、日本政府が行ってきた“円安政策”にあるという。
「’00年から’20年までの間に、アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどでは年間平均賃金が1.2倍程度になりました。隣国の韓国に至っては1.45倍も上昇。それに比べ日本は、わずか1.02倍になっただけです」
こう指摘するのは、経済学者で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんだ。
「円安になれば、輸出企業の利益が何もしなくても増えます。1ドル100円のときに、100ドルのものを売ると、日本円では1万円の売り上げになります。それが、円安になって1ドル130円になれば、同じものを売っても、売り上げは1万3,000円に増える。これまで日本政府は、この“円安麻薬”に頼りきってきました。欧米や中国がIT化など技術革新を進める一方で、日本は鉄鋼などの製造業をそれまでの姿のまま円安政策で保護。それに甘んじて、必要な産業構造の変化や技術革新を行わずに、今日に至ってしまったのです」
もはや何もしなくても、経済が成長して豊かになっていくという時代は終わったということに、誰もが気づく必要があるのだ。