■“特有財産”は財産分与の対象外と聞いてあぜん
ちなみに、離婚後、自分にどれだけ年金分割されるのか。夫にバレずに、事前に金額を調べる方法がある。50歳以上であれば、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を請求すれば、見込み額を知ることができるそうだ。
そして財産分与の中でも、大きなウエートを占めるのが退職金だ。 「退職金は在職期間に占める婚姻期間中の割合を計算して、財産分与の対象となる金額を算定します。 夫が退職する前に離婚する場合でも財産分与の対象となります」(早瀨弁護士)
だが、離婚協議書に“この協議書に記載したもの以外は請求しない”というような記述(清算条項)を入れて合意していた場合、原則としてその後の請求をすることは難しいという。
A子さんの夫のように隠し財産(預貯金、不動産など)を持っている場合もあり、すべてを把握することはなかなか難しいが、有利な条件で離婚したいと思うなら、やはり専門家に相談することがベストな選択になるだろう。
本誌は、A子さんのほかにも、同じような立場になった2人の女性を取材、これらの実録エピソードをもとに“熟年離婚の落とし穴”にハマらないための注意点を早瀨弁護士に解説してもらおう。
結婚32年目。現在離婚調停中の60代専業主婦のB子さん(夫は会社経営者)のケースは、億単位のトラブルである。
B子さんの夫は祖父の代から続く会社の3代目社長。夫の父親が結婚前に建ててくれたという都内の高級住宅地の家に家族4人で生活。結婚後、お金に関しては何不自由なく暮らしていた。
「高級店での飲食、旅行、ブランド品の購入など、夫も私もそれぞれの趣味や人付き合いに、お金をぜいたくに使っていました。子供が2人とも理系の大学で、かなり学費がかかりましたが、それでもお金に困ることはなかったです。だからお互い貯金をするという発想がなく、“あるだけ使うという生活”を長年続けていました」
そんなセレブ生活が狂い始めたのは3年前。B子さんの夫の浮気が発覚し、愛人にお金を使いこんでいることが発覚したのだ。
「かなりもめました。私と子供たちが家に残り、夫とは別居。2年ぐらい別居生活が続き、もう関係修復は難しいと判断し、離婚に向けて弁護士に相談しました。すると、この土地と建物は、夫の親から贈与された特有財産なので、財産分与の対象外だと言われて……。
土地の評価額だけでも数億円あるので、離婚しても億単位のお金が入ると思っていました。それが特有財産だからゼロ。しかも貯金もないので、弁護士からは『離婚しても財産分与でもらえるお金は想像以上に少ないですよ』と。
慰謝料や年金分割などで入るお金だけでは到底納得できないので、いま調停中です」
夫が結婚前から所有していた預貯金、親からの相続や贈与で得た財産は、共有財産ではなく、特有財産となるため、財産分与の対象とならないのだ。
「このようなケースの場合、別居をしたまま、夫から婚姻費用(生活費)をもらい続けて生活をしたほうがいいかもしれません。離婚すると生活レベルが下がる可能性がかなり高いと思われます」(早瀨弁護士)