(写真・神奈川新聞社)
さまざまな形の小型ヨットを設計し趣味で作り続けている男性が、藤沢市にいる。毎月2回ほどは自作ヨットを携え、江の島沖でミニ航海も満喫。「うまく浮かぶよう頭で考えて、課題を解決する過程が面白い」と醍醐味(だいごみ)を語る男性は、「究極の自己満足ですよ」と笑う。
自宅の庭を作業場に、ヨット作りを楽しむのは同市辻堂元町の高橋和章さん(76)。これまで手掛けたヨットはいずれも全長1.2~4.5メートルの小型タイプばかりで、退職した65歳から年1艇のペースで製作に励んできた。
使用する材料は、建築用の合板と海外製の専用の金具、コンクリートのひび割れ補修用の接着剤など。帆には自ら縫い合わせたブルーシートを使い、1艇当たりの製作費は3万~5万円ほどと格安だ。
「同じものは二度と作らない」と、ヨットはすべて一点物。車に積んで持ち運びしやすいよう、折り畳み式や船体を2分割できるヨットなど変わり種も考案してきた。高橋さんは「この方がもらい手が現れるだろうと思ったが、今のところいませんね…」。
高橋さんがヨットに目覚めたのは20代のころ。雑誌でヨットの図面を見て自作を試みた。「ヨットが風上に向かう原理がどうしても理解できなかった。それで実際に作って試してみようとね。本当に走ったんで病みつきになった」
30代で仕事が忙しくなり、時間も労力もかかるヨット作りは退職まで一時封印することを決意。定年後の夢に向け、電動工具を買い集めるとともに、日曜大工で家具類を作り続けて腕が鈍らないよう努めてきた。
ヨット作りを再開してから高橋さんには分かったことがあるという。「若いころはただ工作が好きなのだと思っていたが、そうではなかった。課題にぶち当たって、それをどう解決するのか考えることが楽しいのだとね」
それがヨットを作り続ける理由だと話す高橋さんは、最後にこう付け加えた。「ヨットを手作りする人間なんて絶滅危惧種。他人がやらない分野で、難しいチャレンジを続けることに意義がある」