「生理中でも水泳の授業を強制することが全国的にあるようです。沖縄はどうなっているんでしょうか」。6月下旬、記者のSNSにこんなメッセージが届いた。SNS上では、女子中高校生が月経(生理)中に体育の授業でプールに入ることを強制されたという事例が数多く報告されていた。医学的に大丈夫? 人権上問題では?など疑問や不安の声が上がっていた。沖縄の現状はどうなのか。月経中のプールは問題ないのか―。多くの投稿の中から沖縄在住とみられる投稿主に接触し、取材を開始した。

 

■成績のため、我慢して入る

 

「娘は我慢してプールに入ったけど、変だと思うんです」。中学1年生の娘がいる40代の女性は話す。娘の学校では最初の水泳の授業の前に1時間、オリエンテーションがあった。そこで教師は「生理中でもプールに入れるので、休む理由にはならない」と告げ、「プールの中は水圧があるので経血は漏れない」「プールサイドで血が漏れたときにはホースで水を掛ける」などと説明した。また、プールに入った日数を評価の対象とすることにも触れたという。

 

娘はその日ちょうど生理1日目。「休んじゃいけないんだ」と我慢してプールに入った。次の水泳は経血量が多い日に当たっており、どうしても入りたくないと母親に相談。母親が学校に掛け合い、休ませた。

 

体育や音楽など実技教科は高校の推薦入試で評定が1・5倍になる。「成績を持ち出されると、入らないという選択は難しい」と女性は指摘する。

 

本島内の別の学校に通う中学1年生は「月経中の水泳授業を実施しております」という学校からの文書を受け取った。「あり得ない。みんなの前で血が漏れたら公開処刑」と感じた。この生徒は生理痛が重いため、母親が事情を書いた手紙を学校に提出し休んだ。学校からの文書には「本人の意思を尊重する」とあったが、友人は生理痛があってもプールに入っていた。

 

生徒の母親は県中学校体育研究会が出している保健の副読本で「生理中のプールは大丈夫」という記述があることに触れ、「生理中のプールは医学的、衛生的に問題はないのか。また『強制ではない』と言っても教科書に『大丈夫』と書いてあると、子どもたちには休むという選択肢がないのでは」と疑問視する。

 

生理中のプールに関して保護者らの指摘は大きく二つだ。(1)生理中にプールに入ることは医学的に問題はないのか(2)プールに入ることが半強制となっているが、問題ではないか。

 

■医師「体調と相談を」

 

一つ目の疑問を解くため、那覇市の美代子クリニック(産婦人科)を訪ねた。宮良美代子医師は「水中は水圧で経血は漏れないので、月経中でもプールは可能」とした上で、「月経中でもいつもと体調が変わらない人もいれば、きつい人もいる。それぞれの体調と相談して自分で決めること」と強調する。

 

水の中では経血は出なくても、プールから上がると経血が流れ出る。「血の色は量の割には目立つ。漏れてしまっても本人が恥ずかしい思いをしないようなフォローが必要」と念を押す。

 

思春期は月経周期が不安定なため、1、2カ月出血が続くことも珍しくない。思春期外来を開設している宮良医師の元には、1カ月生理が続いているが、学校の授業でプールに入らないといけないため、ホルモン剤の処方を希望する生徒や、学校に提出するために生理が1カ月続いているという診断書を書いてほしいと来院する生徒もいるという。

 

「生徒たちが自分の意思で選択するには、生徒たちに月経や女性の体についてしっかり教える必要がある」と性教育の重要性を挙げた。

 

万が一、何らかの感染症に感染している生徒の経血が漏れた場合、他の人へ感染するリスクはないのか? 県立中部病院感染症内科の高山義浩医師は「ヒトの肛門周辺には平均0・14グラムの便が付着している。つまり100人の子どもがプールに入れば14グラム程度の便がプールに溶け出していることになる。遊泳用のプールの衛生基準はこれらを前提として、塩素濃度0・4~1・0ppmを保つようにするなど定められている」と説明する。

 

「この濃度では死滅までに時間のかかるウイルスもあるが、細菌の塊といえる便に比べれば、数ccの経血による感染リスクは大した問題ではない」と話した。

 

■副読本執筆団体「誤解の基」と謝罪

 

県内の学校が「生理中もプールには入れる」という説明で使っていたのが、県中学校体育研究会が出している「新保健学習ノート」。県内中学校の9割で保健体育の副読本として使われている。「プールに入ることが半強制となっている」という二つ目の指摘に対し、研究会はどう考えるのか。

 

兼屋辰郎会長は「プールに入ることを強制するための記述ではないが、誤解の基になってしまっていることは私たちの伝え方の問題もあったかもしれない。申し訳ない」と謝罪した。

 

月経中の水泳についてノートへの記載が始まったのは2006年。月経中であることを理由にプールを休む生徒が多く、教師たちは頭を抱えていたという。一方、医学的に月経中の水泳は可能という知識のある教師は、入水を希望する生徒に対して月経中の入水法を指導していた。「その知識を全県で共有し、生徒たちに安心してプールに入ってもらうために、ノートへの記載が始まった」と兼屋会長は説明する。

 

学習指導要領では月経中のプールへの入水に関する記述はない。研究会は「学習指導要領を超えている上に、誤解を与えている」として来年度のノートから月経中のプールの記述を削除すると同時に、月経中のプールを強制しないよう県教育委員会と連携し、現場教師に伝えていく方針だ。兼城雅也理事長は「(生徒に入水させるために)脅しを使うのはあってはならないことで、教師の資質の問題だ。生徒たちが水泳をしたくなるような授業作りが教師の使命」と話した。 (玉城江梨子)

 

 

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