新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛に伴い、沖縄県内の飲食店でも客足が激減している。店の存続のために努力をしている店主たちに重くのしかかるのが家賃だが、負担を軽減しようと半額を免除する家主がいる。那覇市内にテナントビルを所有する瀬底明さん(67)だ。「飲食店が倒れてしまえば、そこで働く人やその子どもたちが一番苦しい思いをする。それは避けたい」。思い切った判断に至った背景には子どもの貧困の現状と、ピンチの時こそ助け合うという“商売哲学”がある。
瀬底さんが所有するビルには居酒屋やスナック、バーなど約20店舗が入居する。ほとんどの店で客足が鈍り、苦境にあえいでいる。居酒屋「さくら家さくら」は4月に入ってから売り上げが前年に比べて9割減った。持ち帰りメニューを作り、落ち込みをカバーするが、それでも補えるのは「1割程度」だという。
客が減った分、食材費も減るが、削れないのが固定費。中でも毎月の家賃25万円の負担は大きい。與那城幸博代表(54)は「生活があるので、従業員を切るわけにはいかない」と歯を食いしばる。
そんな與那城さんら店主たちに瀬底さんは「4月の家賃は半額でいい」と申し出た。「国の救済策から漏れてしまう店もあるだろう。借り入れが難しい店もあるだろう。それなら私がと思って」
これまで地域で子どもの貧困問題解決に取り組んできた瀬底さん。「飲食店で働く女性の中には一人で子どもを育てている人が少なくない。この人たちを路頭に迷わせてはいけない」と話す。ビルのオーナーとしては、店がつぶれて入居者が減れば、ビルの経営も立ちゆかなくなるという危機感もある。
「今から飲食業を始めようという人はいない。大家ができることは今いる客をやめさせないこと。お金は天下の回り物で結局は自分に返ってくる。ピンチの時こそ、お金を回して助け合う。これが商売だよ」とほほ笑んだ。
家主からの思いがけない申し出に、與那城さんは「ここまでやってくれるのなら頑張ろうという気になれた」とコロナ禍を乗り越える決意を新たにしていた。(玉城江梨子)