5月11日、NHKの番組で田中憲久厚生労働大臣が、公的年金の支給開始年齢について、個人の判断で「75歳まで引き上げる案の検討」を表明した。この発言が物議を醸す。
「国は近い将来、年金支給を75歳からにするのか」との憶測が一気に広がった。現在、厚生年金の支給開始年齢は65歳まで引き上げている最中。田中大臣の発言は、さらなる支給開始年齢の引き上げを見越した“ホンネ発言”とも受け取られたのだ。
そんな中、6月3日に厚労省が、5年に1度、年金財政の健全性を検証する、公的年金の「財政検証結果」を発表、示された’14年度の所得代替率は62.7%だった。ここから年々悪化することが予想されるが、財政検証は、かつて’04年に政府が約束した「所得代替率50%以上」の年金給付が維持できるかどうかを点検するものであるはず。
しかし、ここでモデルケースの“非現実的な計算式”に批判が集中した。積立金の運用が年平均4.2%以上の利回りを生むという“夢の数字”を設定していたのだ。裏を返せば「もう代替率50%以上維持は無理」と宣言したようなもの。そこで本誌は、いまの年金制度でどのような老後になるのか検証してみることに。注目は支給開始年齢が引き上げられた場合の収支。
夫(50)が会社員で妻(50)が専業主婦の場合。会社員の夫が65歳以降に受けられる年金額は18万7千290円。妻は専業主婦なので、国民年金(第3号被保険者)で5万4千856円。夫婦合計で月に
24万2千146円となるが、ここから、税金と社会保険料として、13.30%の3万2千205円が引かれれば、手取りは約21万円となる。
65歳以上の高齢夫婦からなる2人世帯の消費支出は月に23万9千905円なので、手取り額からこの消費支出と保険料を引けば3万903円がマイナスとなり、年間では約47万円のマイナスだ。
50歳の男性は81歳、女性は87歳までが平均余命。夫の死亡後は、自分の年金と遺族年金8万7千259円が入り、81歳以降のマイナスは年間約22万円。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんは、生涯の不足額を次のように解説する。
「老後資金は929万円の不足となります。これなら夫の退職金でカバーできるでしょうが、これはあくまで65歳から支給された場合。70歳からとなれば、トータルの不足額は約2千200万円にもなる。退職金もわずかで貯蓄も少ない夫婦は、65歳以降のパートやアルバイトも検討しましょう。年金ゼロの5年間で1千万円以上は必要です」
藤川さんによれば、現役世代の保険料の納付も60歳から65歳まで延長される可能性があるとか。来年10月に消費税の税率が10%に上がると思われる。政府の好景気アナウンスに惑わされず、覚悟して老後のお金を死守しよう。