「毎日自分の能力の限界と対峙している、小説やシナリオを書くことに比べたら、映画の撮影はお祭りのようににぎやかな現場で、みんなでひとつの方向に進んでいくのは、ずいぶんと楽しいことなんだって、自分のなかのとらえ方が変わってきてますね」
そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第69回のゲスト・映画監督の西川美和さん(42)。妻を亡くした男と、母を亡くした子どもたちの交流を通し、人を愛する素晴らしさと歯がゆさを描き切った映画『永い言い訳』(10月14日全国ロードショー)。原作小説も好評で、今作もオリジナル脚本を手掛けている。2人の初対談は、ゆっくりと進んでいきました。
中山「10月公開の監督の最新作『永い言い訳』は、主人公が不慮の事故で妻を亡くすところから始まりますが、実は僕も8月に母を亡くしまして……。77歳の母は入院こそしていましたが、そこまでひどい病状ではなかったんです。いつもどおり『またね』って別れたんですよね」
西川「そうでしたか……。それでは、心の準備ができるような状況ではなかったんですね。おつらい時期に、この映画を見ていただいたんじゃないですか?」
中山「いつかその日が来るのはわかっていたつもりでしたが、いざ自分が当事者になると、まだ整理がつかないですね。そんなときに『永い言い訳』を拝見して、整理がつかなくてもいいんだと、救われた気持ちになりました。そもそもこの映画を製作した経緯は?」
西川「’11年の東日本大震災で、たくさんの方がたくさんの別れをなさって、つらい、悲しい、やるせないと苦しんでいる姿をメディアを通して知りました。私は性格がねじ曲がっているので、つい『自分だったら震災があった日の朝、家族といい形で別れていたかなぁ』と想像してしまって」
中山「けんか別れした夫婦もいただろうし、もめて別れた仕事相手もいただろうしね」
西川「そういう人たちはきっと自分の悲しみをストレートに語れず、後悔を自分の心の中だけにとどめているのではないか。そうした苦々しい別れを経て、新しい一歩を踏み出す様子を作品にしたら、どうなるのかと思ったのが、きっかけですね」
中山「きっと、悔いを残さない別れって、ほとんどないんですよね。小説を書き上げるまでに1年半、映画完成までに1年、トータル2年半くらい費やしたとか。モチベーションの保ち方は?」
西川「実際、最後のほうになってくると、『いい加減にしてくれー』って思うし、飽きてきますけどね(笑)。でも、映画ってひとつひとつの工程が違うので、付き合う面々も変遷していきます。シナリオ(脚本)の読み合わせではプロデューサーと数人だったのが、準備段階では助監督が入って、撮影部や照明部などどんどん人が入って、あらゆる人たちから私は攻め立てられます」
中山「俳優さんたちもそれぞれに悩んで、いろいろ聞かれるのでしょ?」
西川「シナリオを書いた私が、途中から『もう好きにしてくれ』と思うことも。今回は本木(雅弘)さんが私以上に役に対して悩んでくれて、『私はひとりじゃないんだ』って救われた気がしました」