「50歳を超えて私がつくづく思うのは『見ざる、言わざる、聞かざる』が もっとも人生を平穏にする生き方だなということです」

 

そう話すのは順天堂大学医学部教授で、自律神経研究の第一人者として知られる小林弘幸先生。この世にあふれる情報は、楽しいものばかりではない。「隣の芝生は青い」さながらに、見てしまうからうらやましくなり、悪口や自慢話を聞くから嫌な気分になり、余計なことを言ってしまうから、トラブルになるのだと小林先生は言う。

 

「こうした不快な刺激はいずれも交感神経を刺激し、心身を闘争状態にするため、気づかぬうちに怒りっぽくなってしまい、自分にも周囲にも、悪影響を与えかねません。かくいう私も、数年前、教授になった直後までは怒ってばかりでした。外科医という仕事柄、常に神経を研ぎ澄ませ、周囲のミスも厳しく叱っていたものです」

 

しかし、それは百害あって一利なしだった。怒鳴ったところで、スタッフの仕事の能率は改善されるどころか、むしろ悪くなった。これは、怒声が不快な刺激となり、スタッフの交感神経をも興奮させてしまったのだ。

 

「交感神経の暴走は、カテコールアミンやコルチゾールといった、ストレスホルモンの分泌量を増加させます。すると、全身の血管を収縮させ、血圧が上昇。酸素を運ぶ赤血球が破壊されやすくなり、脳をはじめとした全身の細胞が酸素不足に。これでは、仕事の能率が上がらなくて当然です。さらに、心拍数も増え、心臓への負担も増加。冠動脈を狭窄させるので、ひどいときは虚血性心疾患を引き起こす可能性もあります」

 

酸素不足と血流悪化は、肌のハリや血色にも影響が。また、胃腸の働きも止めてしまうため、腸内環境も悪化する。

 

「怒ったり、不快な気持ちになるほどに、健康とも美しさとも、かけ離れていくのです。ただでさえ加齢とともに交感神経の働きは優位になるもの。大人の女性は些細なことで動じたりせず、悠然とほほ笑んでいることが美しさの要です。そのためには、冒頭のような『三猿』をいつも心がけること。ママ友同士の集まりなどがあるときは、不快な刺激を極力受けないように『今日は“褒め”に徹するぞ』と意識して出かけましょう」

 

とくに悪口は禁物!悪口を言うとスッキリした気になるが、攻撃的になっているため交感神経は興奮状態に。

 

「大人の女性の合言葉は『秘するが花』。もしも女子会で噂話や詮索が始まったら、黙って、にっこり口角を上げましょう。脳はそれだけで『いま楽しいんだ!』と錯覚し、副交感神経を刺激。ストレスホルモンも低下します」

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