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「公立病院の赤字のほとんどに、税金が投入されています。総額で年間5,000億円にもなります。じつは2年前に同様の調査をしたときより増えている。病院数や病床数が減っているのに、税金投入額が上がっていることに、疑問を感じざるをえません」

 

こう語るのは、平成27年度の総務省「地方公営企業年鑑」を基に算出した、全国自治体病院の純医業収支額、同収支率をWEBサイト「病院情報局」に掲載している、ケアレビュー代表の加藤良平さんだ。調査対象は全国の公立病院(独立行政法人を除く)793施設。このうち、純医業収支で黒字を計上したのは、わずか27施設しかなかったのだ。97%が赤字という驚くべき数字になる。

 

「公立病院は、昔から赤字が多いと言われていましたが、税金が投入されるため、実際の経営状態は“見えづらかった”といえます。『純医業収支ランキング』は、病院収入から一般会計負担金等(税金など)を差し引いた純医業収支を独自に算出しています。純医業収支は弊社の造語ですが、純粋に医療だけの収入で、どれだけ病院が“自立”できているかを可視化できます」(加藤さん)

 

もちろん、過疎や僻地などで、不採算部門である救急や小児科、周産期医療を担っていくのは、公立病院の使命であり、ある意味“必要な赤字”とも言える。だが、医療ガバナンス研究理事長で、内科医の上昌広さんは厳しい。

 

「人口の多い都市に目立ちますが、経営努力を怠り、何ら対策を打たないまま“不必要な赤字”を累積させる病院も非常に多いのです」(上さん)

 

公立病院がなぜこれほどの赤字体質に陥ったのか。「まずはマネジメント能力の欠如です」と指摘するのは、NPO法人「公的病院を良くする会」理事で、医業経営コンサルタントの阪本俊行さんだ。

 

「公立病院の場合、事務方は役所からの出向組。非常に優秀でも、病院経営の専門家ではありませんし、2〜3年で配置換えがあります。しかも病院が赤字経営でも、他会計からの繰入金(税金など)という名の“仕送り”があるので、自分の給料が減る心配はなく、むしろ年功序列で上がり続けます。結果、民間病院よりも人件費率が高くなる傾向があるのです」(阪本さん)

 

国際医療福祉大学大学院教授の武藤正樹さんは、全国の公立病院が抱える問題の解決にはマネジメント能力のあるトップの存在がキーになると語る。

 

「たとえば事業管理者に経営を委託する“地方公営企業法全部適用”のケースでは、事業管理者の権限と責任で経営を行います。’07年に適用した青森県立中央病院では、管理者の院長が先頭に立って優秀な医師を呼び込み、医師数を100人から130人に増員。経営改革に成功しました」(武藤さん)

 

非公務員型の効率的なマネジメント体制を作るには、独立行政法人化も一つの手段だ。前出の阪本さんが解説してくれた。

 

「大阪府では府立5病院を独法化したところ、全体で130億円あった赤字を、5年間で半分くらいまで減らすことができました」(阪本さん・以下同)

 

埼玉県の志木市ですすめられた民間譲渡も、今後は増えていくケースだという。

 

「公立病院時代の給与体系を民間病院並みにすることで、人件費が下がります。さらに医薬品や委託業者にかかるコストを抑えるため、『病院食がおいしくなった』などのサービス向上にもつながります。民間が担うことで、経営状態の健全化が期待できるケースも多いのです」

 

もちろん、過疎地など人口は少なくても、地域に必要な病院はある。それは赤字であっても残す必要があるだろう。ただし、住民の“合意”が前提だ。

 

「病床削減や、地域の介護事業者との連携をとるなどした機能転換、廃統合などの検討も必要になると思います」

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