「特定健康診査受診結果通知表」(以下・特定健診)は、40~74歳を対象に国が無料で行っている通称「メタボ健診」。本誌の女性記者(56歳)が昨年秋に受診した結果は、なんとほとんどの項目が国の基準値をオーバー。通知表では、要注意として、数値が黄色く塗られていた。
完全にメタボ? 本誌記者はあわてて、この通知を持って、健康診断の数値にくわしい東海大学名誉教授の大櫛陽一先生を訪れた。
「これならすべて正常値の範囲内。投薬の必要もまったくなし。かえって、いちばん長生きできる体形(BMI値)です」
表に示した「大櫛先生が全国70万人の健診結果で統計学的に計算した基準値」と「米国の診断基準値」に照らし合わせると、たしかに本誌記者は正常値内だ。
「米国臨床学会は’17年に収縮期血圧が『130以上で投薬の必要があり』としていますが、米国政府の委員会は60歳では150未満を正常値としており、こちらが正しいと私は考えています」
どうして大櫛先生と国の基準値はこれほど違うのか? それぞれ個別の項目ごとに教えてもらおう。
■腹囲(特定健診の基準値=90cm未満/大櫛先生による55~59歳女性の基準値=66~97cm)
メタボの基準として、おなかに内臓脂肪がどれくらいついているかを知る指標として、特定健診で測定されている腹囲。
「国際的に腹囲はウエスト(肋骨と腸骨の間)を測ることになっています。しかし、特定健診では男女とも、へその周囲を測ることになっている。女性の場合、へその位置に腸骨があるため、内臓脂肪ではなく、骨盤の大きさを測ってしまっているのが、決定的な間違い。腹囲が基準値以上でも100センチ未満なら気にする必要はありません」
■BMI(特定健診の基準値=18.5~24.9/大櫛先生による55~59歳女性の基準値=16.9~26.9)
肥満の程度を表す指数で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で導き出される。国の指針では、BMI25以上は「内臓脂肪蓄積リスク」として、保健指導の対象となる。
「国際基準ではBMIが30以上で肥満。これを超えない限り、肥満の心配はしなくて大丈夫です」
さらに驚くことに、大櫛先生が福島、神奈川などで10年間の追跡調査をしたデータでは、小太り(BMIが25~29)の人がもっとも長生きという結果が出ているのだという。
「病気になったとき、最終的にものを言うのは体力。小太りの人は蓄えている内臓脂肪の分、体力があるということです」
ちなみに、BMI30以上になると、がん、脳卒中、心臓病のリスクが上がり、逆に短命になってしまうのだとか。
■血圧(特定健診の基準値=収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧85mmHg未満/大櫛先生による55~59歳女性の基準値=収縮期血圧78~159mmHg、拡張期血圧50~97mmHg)
日本では多くの健診で収縮期血圧(上のほう)と拡張期血圧(下のほう)を測定するが、「国際的には病気と関係する収縮期血圧の基準のみを定めています」というから、まず驚く。つづいて、収縮期血圧についても、大櫛先生の基準値は55~59歳で78~159となっている。
「以前の医学教科書には『年齢+90』までが正常とされていました。私が実際に全国の健康診断のデータを調べた結果でも160までは死亡率に影響はありません。それ以上は脳出血や眼底出血などのリスクが高まります」
現在、国の基準は130だが……。
「じつは欧米やWHOの基準値も130~150の間を揺れ動いているのが現実です。その原因は、世界的な製薬会社と医療機関の癒着。今年秋に、日本高血圧学会が収縮期血圧130以上で投薬開始という基準に引き下げるといわれていますが、この基準になると、特定健診の対象者である40~74歳のうちの2,700万人が新たに薬を飲むことに。もうかるのは製薬会社と開業医だけと言わざるをえません」
あなたも健康診断の結果に右往左往する前に、大櫛先生の基準値で確認してみよう。