認知症の親のもとには毎日のように「振り込んで」と詐欺の電話。夜、買い物に出かけると、まるで当たり前のように徘徊老人が……そんな時代に突入するまで、あと5年半なんです。
「年金問題について、大きな波紋を広げた金融庁の報告書。その中では、日本が抱える“2025年問題”にも触れられているのです」(全国紙社会部記者)
2025年問題とは、団塊世代の多くが後期高齢者(75歳以上)となる時代に懸念されるさまざまな社会問題のこと。
およそ5年後に待つ“恐怖の未来”について語るのは、国際医療福祉大学大学院教授で、公衆衛生に詳しい医師の武藤正樹さんだ。
「’25年には認知症の人が700万人に達する、と報告書にもあります。かつて、世界のどの国も経験をしたことがない、いわば“認知症パンデミック”が引き起こされるため、運転による交通事故や、徘徊による失踪・死亡事件の増加が想定されているのです」
その予想図と、’25年に向けてわたしたちができる備えについて、武藤さん、そして医療介護コンサルタントで『2025年、高齢者が難民になる日』(日経プレミアシリーズ)の共著もある武内和久さんに詳しく教えてもらった。
■認知症患者の保有資産187兆円を狙った詐欺の横行
警察庁によると、’18年に起こったオレオレ詐欺やアポ電詐欺などの特殊犯罪の件数は1万6,000件以上。1件あたり、平均約230万円もの被害が出ている。第一生命経済研究所では、認知症患者の保有する金融資産が、’25年には187兆円に達すると推計している。
「“ターゲットにするなら認知症の人。なぜならお金もあるし、だまされていることに気づきにくい”と言わんばかりに、詐欺集団も彼らを集中的に狙うことになるでしょう」(武藤さん)
【対策】
「認知症の人の資産を守るために、本人の意思を尊重しつつ、早めに後見人を選定したいところ。また、オレオレ詐欺に関しては、電話をしながらATMを利用している高齢者に声をかけるなど、地域や金融機関でも犯罪防止に取り組む必要があるでしょう」(武内さん)
■行方不明者は2万人超え。うち3%は死者に……
昨年1年間に警察に届け出があった行方不明者全体のうち、認知症患者の割合はおよそ20%、その数は1万6,927人にものぼった。そのうち、徘徊の末に死亡が確認されたのは508人だった。認知症の行方不明者数は、’12年の調査から、年々増加している。’25年には、その数は2万人を超えてしまう勢いだ。
「’18年のデータでは認知症の行方不明者のうちの3%が死亡していますから、’25年には600人以上の死者が出てしまう計算になります」(武藤さん)
【対策】
認知症患者が徘徊してしまったとき、6割のケースは“自宅から1キロ以内にいる”といわれている。そのため、地域の見守りが重要だと武内さんは話す。
「『この人を見たら私に連絡ください』と近隣に周知することが大切。身元がわかるように、住所が書かれたものを靴や服にくくりつけておくのも一案でしょう」
■介護士は55万人不足。施設はパンク状態に
年間10万人もいるといわれる介護離職者。その原因は、認知症家族の介護であることが多いという。
「不安や睡眠不足など、心身ストレスは計り知れません。ひとりで抱え込めば、虐待などにつながる危険性もあり、専門家に頼るのがベストなのですが……」
武藤さんは、頼りにしたい介護現場でさえ“深刻な人材不足”だと嘆く。現在でも介護士は約40万人も不足しており、’25年には55万人にも達する見込みだという。
「新たに介護施設を作っても、オープンできないケースが考えられます。1人が見ることができる患者の人数にも限界がありますから、このような状況で、増え続ける認知症の人を受け入れることはできません。無理に押し込めると、劣悪な環境のもとで認知症が悪化してしまう懸念さえあるのです」
【対策】
武内さんは“在宅介護がベスト”としつつも、家族によるサポートの限界に理解を示す。
「たとえ認知症の人の独居であっても安心できるくらいの、医療や介護、見守り、生活支援など、24時間体制の包括ケアサービスが拡充されるべきです。そして、利用できる制度について知っておくこと。65歳以上で一定の収入がない場合、さまざまな介護サービスが1割負担で利用できますが、家族がそれを知らずに抱え込んでしまう場合も多いです。自治体の介護保険課に、在宅介護時に使える制度がないか相談してみましょう」
若手弁護士のつながりの場や、介護事業のトップリーダーの講演などを企画している「KAIGO LEADERS」代表の秋本可愛さんは、年々認知症患者が増えていくなかで、彼らを受け入れる社会づくりが大事だと訴える。
「認知症の方々が、地域の人たちに『ありがとう』と言ってもらうような機会をもっとつくっていくべき。じっさいに、料理、庭仕事、駄菓子屋のお店番など、高齢者の患者に活躍の場を提供している施設もあります。介護する側だけでなく、彼らにも『ともに社会に貢献している』と思ってもらうことで、少しでも両者の負担が減るのではないでしょうか」
親は、夫は、そして自分は? 5年後の環境を考えて、自分が打てる対策を実行していこう。