新型コロナウイルスの収束が見えないなか、これまでになく「死」を身近に感じ、「相続」を考えた人もいるのではないだろうか。
相続法は’18年、約40年ぶりに大きく改正され、手書きの「自筆証書遺言」の法務局保管制度が、’20年7月から始まった。さらに’21年度以降には、法務局に保管された自筆証書遺言の遺言者が亡くなったときに、生前指定した人に連絡する制度が本格的に始まる予定だ。
このように遺言書に関する制度が整備され、そのハードルは下がっているが、それでも、まだ多くの人たちにとって遺言は「うちには関係ない」存在だろう。
だが、弁護士の竹内亮さんはこう指摘する。
「遺言書がないと、遺族が集まり、財産分けについて話し合わねばなりません。その話し合いこそが、大変なのです」
遺言書があれば話し合う必要もなく、遺言書どおりに相続すればよい。残された家族がもめる機会も、大幅に減るという。
「特にお金持ちでもない、普通の家庭に、複雑な遺言書は必要ありません。A4用紙1枚に手書きでつくる『シンプル遺言』で十分です」(竹内さん・以下同)
残された家族がもめないための遺言書づくりを、教えてもらおう。
【ケース】面倒をみてくれた子どもに財産を多く残したい
光文幸子(75歳)は夫に先立たれた後、自宅を処分し、有料老人ホームで暮らしている。
幸子は今の暮らしが気に入っていて、自宅の処分やホーム選びに力を貸してくれた長女にとても感謝している。入居後も、長女は孫を連れてよく面会に来てくれ、電話でも話を聞いてくれる。
いっぽう、長男は実家のことは姉に任せきり。近くに住んでいるのにほとんど顔を出さない。
幸子には預貯金が3,500万円ほどあるが、90歳まで生きるとしたら半分はなくなるだろうと計算している。残りを相続するとき、長女に多めに残したい。
「相続の場でもめる原因になりやすいのが、『私は親の面倒をよくみたのに……』と言う感情です」
親の立場から見ても、幸子のように、面倒をみてくれた子にはほかのきょうだいより多めに残したいという人は多いだろう。
「残念ながら法律は“やさしさ”を評価してくれません。相続でもめて裁判になった場合、たとえば介護のヘルパー費用が月8万円必要なところを、娘が手伝ったことで月4万円に減ったなどお金に換算できると、『面倒をみた=寄与分』が認められやすく、長女が多めに相続できるかもしれません。ただ、よく面会に行った、話し相手になった程度では寄与分は認められず、きょうだいは同等に相続財産を分けることになります」
では、面倒をみてくれた子に、多めに残すことはできないのか?
「こういうときこそ、シンプル遺書を書くべきです。遺言書を作れば、2人の子の取り分をある程度自由に設定できます。このケースでは、長男に残す預貯金をまず限定して、『それ以外の預貯金』と最後に書く『それ以外すべての財産』も長女を指定するとよいでしょう」
【遺言書の例(自分で書く)】主な財産データ:預貯金3,500万円
遺言書
1 預貯金のうち500万円を長男D太郎に相続させる。
2 それ以外の預貯金はすべて長女E子に相続させる。
3 以上に書いたもの以外のすべてを長女E子に相続させる。
2020年10月13日
東京都○○区××1-2-3
光文幸子(印)
それぞれの項目を書き終えたら、書いた日付、書いた人の住所、氏名、そして押印を忘れずに。
「ただ、長男にまったく残さないといった極端な遺言はもめるもとです。避けておきましょう」
後に残る家族への贈り物として、シンプル遺言を書いてみよう。
「女性自身」2020年10月27日号 掲載