「『記憶力は加齢とともに低下する』と思われていますが、大きな誤解です。脳を育てる要素はじつはふだんの生活のなかにたくさんあり、ほんのちょっと行動を変えるだけで、脳は活性化します」
そう語るのは、認知症予防が専門の医師で東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授。瀧教授は、認知症リスクを下げる「セルフトレーニング」を提唱している。
「認知症とは記憶力をつかさどる海馬の萎縮が始まり、脳全体に広がることで日常に支障をきたす状態を言いますが、近年の研究で大人になっても海馬で神経細胞が増えることがわかりました。さらに、神経細胞同士のつながりを強くすることで情報処理能力が高まるといわれています。これを“脳の可塑性”と呼び、最近注目されています」(瀧先生・以下同)
脳の健康を保つキーワードは大きく3つあるという。1つ目はいくつになっても「知的好奇心を持つ」こと。2つ目は「運動」。そして3つ目は「人とコミュニケーションを交わす」ことだ。
「ふだんの生活のシーンにも、脳を鍛えるチャンスはたくさんあります。たとえば、コロナ禍で友達とおしゃべりする機会が少なくなった人も多いと思いますが、そんなときこそお勧めなのが“1分間音読”です。声を出すことはコミュニケーションに必須で、ふだんから声を出していないと、いざというときにうまく声が出なくなり、さらにしゃべれなくなるという悪循環に陥ってしまいます。また、読解力や文章の切れ目を理解する能力を鍛えることで、脳にいい刺激が与えられます」
会話をする機会が少なくなったという人は、新聞のコラムや好きな小説、音読用のテキストなど、自分が読みやすいと思うものを使って声を出す練習をしよう。
さらに、ニュースを聞きながら“脳内メモ”を取ることが脳トレになるという。
「テレビでニュースを1件見たら、その内容を100字ぐらいにまとめる練習をしてみましょう。最初はメモを取りながらでも、続けるうちに、頭の中でまとめられるようになってきます。さらに、まとめたことを家族や友人にわかりやすく伝えるようにすると、能力のアップにつながります」
会話の最中に、人の名前などが出てこず、「あれ、なんだっけ?」ということが増えてきても悲観することはない。度忘れしているだけで、インプットした情報がうまく取り出せないだけなので、周辺情報から思い出すと思い出しやすくなる。
さらに、記憶力をアップさせるためには、“2日前の食事のメニューを思い出す”トレーニングも有効だという。
「2日前の食事内容を思い出すことは脳の活性化につながります。記憶があいまいというときは、前日、当日食べたものを思い出すのでもかまいません。余裕ができたら『食事日記』をつけてみましょう。日記のいいところは、1週間の食事内容を振り返って、栄養が足りていないかどうか栄養バランスをチェックできることです」
チェックしながら食生活を改善すると、よりいっそうの効果が得られるそうだ。
「女性自身」2021年2月9日号 掲載