女性が最もなりやすいがんといわれる乳がん。早期発見すれば助かる可能性が高いとされるが、コロナ禍の自粛によって、検診受診率が激減しているという。危機感を募らせる現場の医師に、実情を聞いた--。
「乳がんの進行度合いはステージ0~4に分けられ、数字が大きくなるほど進行していることを表しています。今年の4月に受診した50代の女性は、ステージ4と診断されました。ほかの臓器への転移がある状態です。彼女は’19年の終わりごろから胸のしこりが気になっていました。けれど、コロナ禍になり、親の介護もしていたので外出を控えた結果、受診するのを1年半も先延ばしにしてしまったんです」
そう話すのは、ときわ会常磐病院・乳腺外科の尾崎章彦医師。尾崎医師は、何かしらの症状や違和感があってから初回受診するまでの期間と、その際にステージ3、4と診断される割合を独自に調査している。
「3カ月以内に初回受診した乳がん患者で、ステージ3、4だったケースは68人中7人で10.3%。3~12カ月を要した患者は、11人中2人で18.2%とがんが進行した人が増加しました。さらに12カ月以上を要した患者に至っては、18人中12人、66.7%がステージ3、4と診断されるという結果となりました。自覚症状に気づいてから初回受診までの期間が長引くほど、がんが進行してしまうのです」
一方、早く見つければ見つけるほど生存率は上がる。
【乳がんのステージ別生存率】
〈1期〉2cm以下のしこりで、リンパ節への転移がないと思われるもの
5年生存率:100%/10年生存率:98%
〈2期〉2cmを超える5cm以下のしこりがある、もしくはリンパ節への転移が疑われるもの
5年生存率:95.8%/10年生存率:88.4%
〈3期〉しこりが5cmを超えるものや、しこりが皮膚などに及んでいるものなど
5年生存率:80.8%/10年生存率:63.8%
〈4期〉しこりの大きさを問わず、ほかの臓器に移転がみられるもの
5年生存率:39.8%/10年生存率:19.2%
※がんの統計2021 全国がんセンター協議会加盟施設における5年、10年総相対生存率より。ステージの説明は、日本乳癌学会の定義をもとに本誌作成。
治療開始時のステージが1もしくは2と診断された患者では、5年生存率はともに90%を超えている。
さらに進行度合いによって、治療法も変わると昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門・明石定子教授。
「早期に発見できれば、術後の抗がん剤が不要な場合もあります。一方で、がんが進行すればするほど治療による体への負担、そして金銭的な負担も大きくなっていきますから、早期発見は本当に大切なことなんです」