19世紀から20世紀に変わる世紀末に、ウィーンで才能を開花させ活躍するも28歳の若さで夭折した伝説の画家、エゴン・シーレ。彼の作品を集めた展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展ウィーンが生んだ若き天才」が上野の東京都美術館で4月9日まで開催中だ。
美術アカデミーに最年少で合格し、クリムトにも才能を認められたシーレ。表現豊かな線描や独自の色使いと構図で、自身の内面や心象を生々しく鮮烈に描き、見る人の記憶に残る作品を遺していった。
本展はエゴン・シーレの世界有数のコレクションを誇る、ウィーンのレオポルド美術館の所蔵品を中心に、シーレ作品50点を、同時代の芸術家作品とともに紹介している。シーレの名が冠された展覧会はなんと30年ぶり。その貴重な展覧会の見どころを、本展を担当した東京都美術館の学芸員・小林明子さんに解説してもらった。
■名作の自画像にシーレらしさが詰まってる!
【構図】
「自画像を多く描いた画家としてシーレは知られています。代表作とされる《ほおずきの実のある自画像》は、シーレらしい画面構成が特徴的。体のねじりがきいており、緊張感のある線が生まれています」(小林明子さん・以下同)
【筆致】
「シーレの絵画のなかには、20世紀前後のヨーロッパで生まれた、内面や感情など目に見えない主観的な世界を荒々しい筆致や絵の具を盛り上げる技法を用いて表現する『表現主義』の特徴を示す作品もあります。《ほおずきの実のある自画像》にも内面の激しさが筆致に表れています」
【色使い】
「色彩感覚も独特です。たとえば肌の部分には、赤や青など自然を超えたさまざまな色が使われています。《ほおずきの実のある自画像》は全体がモノクロームでまとめられていますが、ほおずきの色がアクセントになっています」
■シーレの絵をさらに知る3つのキーワード
【身近な死】
「シーレは父や姉を早くに亡くし、幼いころに身近な死を経験しました。そうした生い立ちから、死への恐怖、孤独や葛藤といったテーマに向き合い、人間の本質を絵画を通して表現しました。誰もが共感できる普遍的なテーマを描いているところもシーレ作品の魅力だと思います」
【哀愁の風景画】
「シーレといえば人物画のイメージがありますが、風景画も数多く制作しました。自然の風景や古都の街並みなど、実際の風景をもとに描きましたが、そこには自身の感情や心象が投影されていて、哀愁や寂しい雰囲気が伝わってきます」
【個性的な裸体像】
「古来、裸体は絵画に描かれてきましたが、シーレの場合は、大胆なポーズと赤裸々な表現が特徴です。エロティックに描き出すというより、裸体を通して、人間のすべてをさらし、本質を追求することが目的だったとも考えられます」
■捨てた恋人に未練! 女泣かせな面も
性的に奔放な人物としても知られたクリムトほどではないにしろ、シーレにも女泣かせな一面が。シーレは約4年交際した恋人・ワリーがいながら、おそらく体面を保つため、中産階級の女性を結婚相手に選ぶことを決意したという。
自宅の向かいに住む姉妹にアプローチし、ワリー同席のもと姉妹と出かけるなど不思議な関係を続けた。最終的に妹のエーディトと結婚するが、結婚後も「1年に1回休暇を一緒に過ごそう」とワリーに身勝手な提案をし、あっさりと断られたそう。シーレ、もしかして自己中!?