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政府が“年収の壁”対策を検討しています。改めて、基本のキから振り返ってみましょう。

 

まず大前提から。会社員の妻は、収入が一定額以下の場合、夫の社会保険の扶養に入ることで保険料負担なく社会保険に加入できます(男女の立場が入れ替わっても同様)。

 

しかし、妻の収入が一定額に達すると、妻は自分名義の社会保険に加入する義務が生じます。加入すると保険料を払うので、加入前より手取りが減る。これが社会保険に関する年収の壁です。保険加入ライン以下の年収に抑えるため労働時間を調整する方もいて、年末などに労働力が不足する企業が多いという問題もあります。

 

現在、こうした壁は106万円と130万円の2種類あり、政府はそれぞれに対策を講じる方針です。

 

【1】106万円の壁

 

従業員などが101人以上の企業に勤め、週20時間以上の勤務、月収8万8千円以上などの条件を満たすと、勤め先の健康保険や厚生年金への加入が義務になります。

 

たとえば月収9万円(年収108万円)だと、社会保険料は年約15万円。年収108万円から保険料を払うと手取りは93万円と加入前より減ってしまうため“働き損”と感じる方が多いようです。

 

ですが加入後、年収を125万円程度までぐっと増やせば、保険料を払っても加入前の手取りを下回ることはありません。

そのため、6月28日に政府の方針が報道されました。基本給の3%アップや週3時間以上労働時間を増やすなどした企業に、労働者1人当たり最大50万円の補助金を送るといった内容です。

 

ただ補助金を受け取るのは企業です。労働者は長く働いても手取りが増えない状況で、働き損の印象を払拭できるとは思えません。

 

【2】130万円の壁

 

従業員などが100人以下の企業で年収130万円以上になると、勤め先の社会保険か、国民健康保険・国民年金のどちらかに加入しなければなりません。年収約130万円だと社会保険料は年約20万円です。

 

6月30日に明らかになった政府の方針は、「年収が130万円を超えても一時的な収入増なら、保険料のかからない扶養にとどまることができる」というもの。保険加入ラインをうやむやにする場当たり的な方針としか思えません。

 

というのも106万円の壁は’24年10月に、従業員数101人以上の企業から、51人以上の企業にも広がるのは決定済み。さらに従業員数の要件自体をなくす方向で審議中なのです。

 

つまり国の大目標は年収106万円以上で社会保険に全員加入とし、保険制度の支え手を増やすこと。「一時的な年収増なら未加入でもOK」は大目標と逆行する方針で理解に苦しみます。

 

ともあれ、家計を守るのは自助努力しかないと思います。働けるうちは壁を乗り越えしっかり稼いで、貯蓄を増やしていきましょう。

経済ジャーナリスト

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